優しい音を奏でて…優音side

─── 2月14日 ───

奏の誕生日。


今年は、弁当箱にした。

黒いピアノモチーフの弁当箱。
蓋には鍵盤が並んでいる。


春から、俺たちは違う高校に通う。

俺は奏に合わせて、ランクを落とそうかとも思ったが、やはり周りが許さなかった。

奏をお気に入りの母さんは、味方だと思ってたのに、違ったんだ。

「奏ちゃんにお嫁に来てもらうんだから、
優音は自分が行ける1番の学校に行って、
一生を掛けて奏ちゃんを守れる男になるべき
でしょ。
学歴も収入もない男じゃ、奏ちゃんを他の人に
取られちゃうわよ。」

俺は母さんに、奏が好きだとか、結婚したいとか言った事は1度もないんだが、母さんの中では奏は俺の所に嫁に来る事が決定しているらしい。

まぁ、それは俺としてもやぶさかではないからいいんだけど。


だから、プレゼントは、弁当箱なんだ。

高校からは、毎日、弁当を持って行く事になる。

毎日、お昼にこの弁当箱を見て、俺を思い出してくれたら、嬉しい。


高校では、今までみたいな協定はない。

誰でも奏に告白できるんだから、心配で仕方がない。


はぁ………

こんな事を考えても仕様がないから、もうチャイムを押そう。


ピンポーン ♪

「はーい」

─── ガチャ

奏だ。

「ゆうくん、いらっしゃい。 」

「うん…
奏、お誕生日おめでとう。」

「ありがとう。」

奏は嬉しそうに俺の差し出す袋を受け取ってくれた。

「じゃ。」

と俺が帰ろうとすると、

「ちょっと待って。」

と呼び止められた。

「ゆうくん、はい。」

奏の手には、チョコと思(おぼ)しき紙袋が。

「今年は受験だから、ないと思ってた。」

と俺が言うと、

「気分転換。」

と奏が笑った。



やっぱり、奏は世界で1番かわいい。


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