優しい音を奏でて…優音side

「ねぇ、ボーン吹いてみてよ。」

奏が口を開いた。

「いいけど、防音室じゃないから、ミュート
付けるよ?」

木管楽器に比べて、金管楽器は音が大きく響く。

「いいよ。聴きたい。」

奏のリクエストに答えて、とりあえず簡単な『聖者の行進』を吹いてみる。

聴いてる奏も楽しそうだ。

「私、ピアノ弾いていい?」

俺が頷くと、奏は電子ピアノの電源を入れる。

俺のトロンボーンに合わせて、ピアノで伴奏を付けていく。

小学生の頃から、こういうの、よくやったな。


ジャズの定番曲を何曲か演奏して、ちょっと休む。

「ちょっと、休憩。
これ以上吹いたら、唇腫れそう。」

「まだまだ、修行が足りないね〜。」

奏が軽口を叩く。

「バイオリンに変えてもいい?」

と聞くと、

「いいよ。バイオリンも聴きたい。」

と答えてくれたが、

「でも、やっぱり休憩してから。
奏、お茶飲むだろ?」

俺はお茶を入れにキッチンへと向かった。


「どうぞ。」

俺はコーヒーが好きだが、奏はコーヒーが苦手だ。
お気に入りはミルクティー。

奏に出したミルクティーを見て、

「……… これも覚えててくれた?」

と俺を見上げる。

「…………あぁ。」

何十年、奏と一緒に過ごしてきたと思ってる?
俺の片思い歴は、22年だぞ。
あ、言葉にすると、かなりイタイな。
ストーカーっぽく聞こえる。

< 62 / 98 >

この作品をシェア

pagetop