くまさんとうさぎさんの秘密
by 柳瀬 隆司

宇佐ちゃんと熊谷は、似合いだ。
二人とも、古典的な浴衣を、隙なく着こなしている。そこに、工夫はいらない。
俺の親父と奴とは違う。奴かは、意思が強い。
俺は、店を少し離れた。
「リュウジ。チェリー君いじめちゃダメじゃん。」
後ろから、声をかけられた。
ちょっと焦って振り返る。
みやこが1人で立ってた。ほっとする。
「何言ってんの?」
「分かってるよね。いろいろ、熊谷のことからかってたでしょ。」
「宇佐ちゃん、大事にされて一緒に暮らしてんのか、遊ばれて一緒に暮らしてんのか、気になっただけ。」
俺は、缶コーヒーを開けた。
「悪い奴じゃないって、言ったじゃん。。ちゃんとしてるよ。汚れてないんだよ。私やあんたと違って。」
「チャラチャラしてるやつに浮気されんのと、経験無さそうなやつに浮気されんのと、どっちが痛いと思う?」
俺は聞いた。みやこは黙り混む。
浮気されたのは自分の方なのに、汚れもんみたいに言われる。みやこや俺の母親みたいな女は、誤解を受けて辛い思いをしてきた。
「真面目と、経験ないのと、相関関係ないんだよ。経験なさげなの、一途と勘違いしたら、女は幸せになれないんだ。いるだろ。経験なさげで一途じゃないやつ。」
みやこは嫌な顔をした。
「熊谷は悪い奴じゃないよ。」
「分かったからもういいよ。」
「やっぱり、宇佐ちゃんが好きなわけ??」
「違うよ。俺、好きなやついるし。」
俺は、ちょっとドキドキした。
本当のことは、もう何年も話せずに来た。
何で、今、みやこにそれを話そうと思ったのか、自分でも分からない。
「意外。博愛主義で、何にも執着しないタイプかと思ってたら、宇佐ちゃんだけじゃないんだ。リュウジって、不器用なんだね。」
「友達にも恋心にも、執着は強いね。ふられてもそばにいるからね。」と、俺は答えた。
「中学の時に、思いっきりキスされたんだよ。でも、その時は、自分の方が自分の気持ち自覚してなかったから、突っぱねたんだ。それっきり。こっちの気持ち、自分より先に相手にバレてた。そこから、忘れられなくなって、でも、どうにもできなくて。相手はあっさりしたもんで、今は他のやつと付き合ってる。」
「そっか。」
「俺さ、中学の時は、もうちょい可愛かったんだ。多分、その頃の俺は、相手の好みだったんだと思う。今は、おっさんだろ。いくら可愛くしようとしても、もうその頃には戻れない。」
「何か、言ってること35歳以上な感じだよ。リュウジは、年齢より若いし、めちゃめちゃイケメンだと思うよ。相手だって、もう中学生じゃないし。リュウジが変わったなら、相手の好みも変わってるかもしれないじゃん。」
「まあ、相手に相手がいるってこと。俺とは違うタイプ。」
「そっか。」
今まで、誰にも話したことがなかった。
「俺さ、好きなやつと今の相手と取り持っちゃったんだよね。はからずも。相談されて。それから、いろんな女の子ついつい応援しちゃうんだ。何か歪んでんだよ。宇佐ちゃんは、幸せになってほしい人。熊谷は、煮えきらないやつだろ。」
「くまさん、、小さい頃は、お母さんと結婚するって言ってたんだよね。遅咲きなだけだよ。多分。」
「マザコンなんだ。」
「いや、バカなんだよ。小1くらいの頃。女子に結婚申し込まれたけど、結婚の意味が分からなかったらしい。帰国子女で、何かずれてたんだ。それで、「男の子と女の子が一緒に住んで、子ども作ったり、生活したりすること」って、私が言ったんだ。奴が言ったことが、「今の家族のままでいいから、お母さんと結婚する」ってこと。奴は、家族は大好きなんだよ。」
「俺、家庭的に恵まれてないから、そういうの理解できないわ。」
「あいつも母子家庭だよ。親父さんとは死別してる。」
「そっか。。そのマザコンはイビツだな。」

煮え切らないだけの男に見えていたが、いろいろあるんだと思った。




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