くまさんとうさぎさんの秘密
by 熊谷 ひとみ

産まれた女の子には、穂香という名前をつけた。
実は、あっちゃんがずっと使ってるお香の名前だ。
穂香はミルクを飲もうとはしなかったから、完全母乳で育てた。
冬の間は、ママの免疫力が落ちて、しょっちゅう発熱していたので、ほとんど寝たきりで授乳していた。
私が体調が悪いのと引き換えに、穂香は、まるまると大きく育ったし、熱も出さなかった。
この半年以上、私は、一回もピアノを見なかった。

ただ、穂香と、自分を気遣う家族に囲まれて、冬が終わるのを待っていた。
穂香のことに気を取られて、寝たきりになっていたら、優ちゃんが木琴を買ってきてくれた。
ばちが二つ。一つは穂香に持たせて、お手本でたたいてみたけれど、穂香は口に入れるばっかりで、木琴をたたこうとはしない。
それでも、木琴をたたいてみせて様子をうかがっていると、穂香がにこにこ笑う。
「優ちゃん、穂香は、聞くのは好きだけど、ばちはおしゃぶりだと思ってるわ。」
と、私は、優ちゃんに報告した。優ちゃんは笑った。
「ひとみさん、何でほっちゃん笑ってるか、気づいてる??」
難しい質問だ。プロじゃないのに分かるわけない。
優ちゃんは、笑った。
「ひとみさんが笑ってたからだよ。」と、優ちゃんは言った。
「そっかあ。気が付かなかった。何でも口に入れちゃうのが可笑しくって。」
「可愛いね。木琴、まだ早いかと思ったんだけど、大好きみたいだね。寝返りうって喜んでる。ひとみさんの娘だね。」優ちゃんは、本当に優しそうに笑う。

「優ちゃん、ごめんね。。こんなばばあがくっついてて本当にごめんなんだけど、義明のこと、見捨てないで。お願いだから見捨てないでやってね。。」
「ひとみさん、私、赤ちゃん好きなんです。何かね、優矢も遊びに来させてもらって、夢みたいな生活してるよ。実家から追い出されるみたいに出されちゃって、お父さんもお母さんも、何てめちゃくちゃなんだろうって思ってたけど、、結局、お父さんの言うとおりにして正解みたい。だから、すごく図々しいんだけど、自分の家と思って居座らしてもらってるよ。」
優ちゃんは笑った。
< 129 / 138 >

この作品をシェア

pagetop