くまさんとうさぎさんの秘密

バックヤード2

by 宇佐美 優那
私と平林さんが店に入ると、店内にはアレンジのきいたキラキラ星が響き渡っていた。
「うわあっ、。。。相変わらずお上手で。」と、平林さんが言った。
「昔より下手にはなってんだろうけど、久しぶりだし、めちゃめちゃ楽しいよ。ひとみに褒めてもらったこと、怒られたこと、一つ一つ思い出してたところ。」
「やっぱし、マザコンだよ。。」
と、平林さんは言った。
「俺は、ピアノ続かなかったなあ。」
「私もね。続かなかったわ。」
「平林は、俺がやめてからも頑張ってたじゃん。」
「ダラダラ惰性で続けて、踏ん切りつかなかっただけよ。私の方が、もっとピアノに向いてなかったと思うわ。コンクールだの、発表会だの、頑張れば頑張るほど、競争になっちゃって、孤独になるというか。。サックス始めてからは、バンド組むってことが楽しくてしょうがないのね。」と、平林さんは言った。
「これこれ、ちょっと合わせてみようよ」と、くまさんが、おもむろに楽譜を取り出す。
ほんのワンフレーズ、二人で演奏した後、くまさんが、勝手に一人で適当なメロディーを演奏する。平林さんが、面白がって、適当にメロディーをかえす。
何か、入っていけない感じ。。
平林さんの言ってることは、ちょっと分かる気がする。
二人とも、一緒に演奏するとなると、緊張しちゃうくらい上手だ。
平林さんは、実は、ピアノもめちゃめちゃうまい。
これが、同じ楽器だと、ついつい比べてしまうだろう。音の重なりを楽しむには支障がある感情だ。私も、いざ、この演奏に横からわりこもうとは思わないもん。

そうこうしてたら、奥から前嶋さんが不機嫌そうな顔をしながらやって来た。
「最悪だ。。」
「篤さん、どうしたんですか??」
「宇佐ちゃんのお父さんに説教されたんだよ。」
くまさんが、怪訝そうな顔で、こちらを振り返る。
「優那のお父さん??」
「そうそう。俺の中学の時の担任なの」
「ええっ!!」世の中が狭いのか、お父さんの世界が広いのか。。
「今、親父と一緒に穂香と遊んでる。何か、もう一人ちびっ子が来てたぞ。」と、前嶋さんは言った。多分、優矢だ。。
「言ってることはごもっともなんだけど、すんだこと言われたってしょうがないし、俺は俺で、その後は必死に筋通してるんじゃん。ひとみのことも、めちゃめちゃ大事にしてるし。」
前嶋さんは、どかっと行儀悪くソファー席に座って、思いっきり体をのけぞらせて座った。
「俺も、実は、怒られたことある。」と、くまさんが言い出した。
「一回、優那のことどういうつもりか確認されたんだ。その時、はっきり返事できなかった。別に、責任逃れしようとか、ごまかそうとしたわけじゃないんだけど、ひとみに男女交際禁止って言われてたし、そもそも、優那がどういうつもりか話したことも無くて、一緒に住んでるだけだったし。俺には俺の事情があって、その時はしょうがなかったんだよ。何がちゃんとするってことなのか、考え中だったというか。。」
お父さん、知らないところで、そんなプレッシャーをかけていたとは。。
私には、優しいだけだから知らなかった。。
「ごめんね。。お父さんがそんなこと言ってるとは知らなくて。」
「そうそう。そこなんだよ。ひとみがいるところでは言わないの。人間関係に口出しされるってことがちょっと痛いわけ。ひとみと俺の問題なのに、ひとみがいないところで俺だけに言うわけ。。」
「俺も、優那がいなくなったら言われた。」
二人で、そうだそうだと意見が一致したようだ。
「そう言えば、、りゅうじもだよ。いなくなると、何かやらしいこと言いに来るんだよ。俺にだけ。」と、くまさんが、私と平林さんに言った。
「何なの、あいつ。平林と付き合ってるんじゃないの??優那に気があるの??」
平林さんが、言いずらそうに口を挟む。
「りゅうじのは、やきもちとか恋愛感情じゃないよ。断じて。。」
「じゃあ、何なの??」
「単純に、友達の男が、チャラかったり変態だったりしないか心配してるだけというか。。」
「あいつが、りゆうじの方が、ちゃらちゃっらしてんだろ。」
「そういうんじゃないから、心配いらないよ。」と、平林さんは言った。

二人の掛け合いの間、そっぽを向いていた前嶋さんが、つぶやく。
「まあ、でもさ、宇佐美さんも、応援してくれてんだってことは分かるからさ。そういう話は謙虚な気持ちで拝聴するのが大人だって、ひとみに言われた。。俺だって、結婚生活継続するには、だめなことはだめだって気が付いていかないと、いつかガタ来るのは分かるし。よく考えたら、当たり前のことを面と向かって言ってくれる人も居なかったとは思ったな。。」
くまさんも、口をつぐんだ。「ひとみが言ってた」が、前嶋さんにもうつっている。くまさんも、前嶋さんも、よくしつけられたもんだ。。
「あのさ、、りゅうじだって、めちゃめちゃあんたたち二人のことは応援してたよ。そもそも、同棲してるけど付き合ってないって状況が、すでに心配な状況じゃん。。」と、平林さんは言った。
平林さんと、りゅうじさんと一緒に、「くまさん陥落作戦」を立てた時のことを思い出す。
あんまり詳しく言わないでほしいかも。。ブラストラップと、シフォンの下着と、イヤリングは効果あった気がするんだよね。。
「ひとみが、優しい女じゃなかったら、穂香はこの世にいなかった可能性もあったわけで、。男は、産んでもらえなきゃ父親にはなれないからな。そんな当たり前のこと、惚れたのはれたので舞い上がってるうちは、誰も教えてくれなかった。」
前嶋さんは言う。
「そうそう、そろそろ、演奏聞かせてよ。今回限りとはいえ、ある程度の水準のもんじゃないと、店には出せないからな。」と、前嶋さんは言った。
平林さんは、私とくまさんにだけ聞こえるように言った。
「この人、この子どもっぽい人が、ここのオーナー??」
「そうそう。ここで一番偉い人。」と、くまさんは、小さく噴出した。
「あんたの母ちゃん大丈夫??」と、平林さんは、眉をひそめて言った。
「前嶋さんも、くまさんも、真面目だよ。二人とも、ちゃんと約束は守る人だから、大丈夫。」と、私は言った。
「ごちそうさま。」と、平林さんは、面白くもなさそうに言って、舞台に立った。
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