くまさんとうさぎさんの秘密

初夏の風

by 熊谷 義明
澤谷は、保険屋がつけた弁護士を連れてやって来た。
弁護士は、防犯カメラのビデオを見せても、何も言わなかった。想定の範囲内だったんだろう。
ビデオには、澤谷が宇佐美に向かっていくところと、グラスがなぎ倒されるところと、照明に何かがカチあたって割れたところが写っていた。
澤谷としては、弁償させてほしいとの意向だった。

この席につく前、前嶋さんがしかめつらしていた。。
「やっぱり、画像残ってんじゃん。お前、この席にカメラ回ってないって言ってたよな。」
「お客様どうしのトラブルに巻き込まれたらめんどうでしょ。前嶋さんには、カメラに死角はないって言ったじゃないですか。」
「おもいっきり巻き込まれてるだろ。あんなやつ、もう一回店に呼ぶとかあり得ないし。あの照明なんて、もう2度とオリジナルは手に入らないから、偽物つるすしかなくなってんだよ。」
「恩に着ますよ。今回の件は、ひとみにつけといて下さい。」
「、、。義明、お前、うちの調度品は、弁償できるようなもんじゃないって分かってんの??」
「弁償って、照明とかグラスとか、それは、澤谷さんとお店の話でしょ。つけといてってのは、今日の場所代だよ。」
「場所代も上がるわ。あんだけ大暴れした、要注意人物呼ぶんだろ。」
前嶋さんは、ひとみの立体動画を店の奥の壁面に置いていた。
ひとみは、この店の看板のひとつだから、それなりに面白い趣向とも言える。
お手洗いに行く途中に、どの席からも、この壁面の前を通る。壁に埋め込まれた飾り棚の中に、30センチ足らずのひとみが、背中の蝶の羽を震わせる。

店の調度品については、あっさりと保険屋に弁償してもらうことで話がついた。澤谷が店に2度と入らないことも約束させることができた。
とはいえ、前嶋さんにとって、元々壊れたものがそのまま戻ってくることは、2度とない。保険屋がそれなりに値段つけたけど、あの照明は、2度と手に入らないものだそうだ。
防犯カメラの画像だが、こちらは、澤谷にわたすわけにはいかなかった。というのも、思いっきり宇佐美が写っていた。

「宇佐美さんと話がつかないことには、この画像を店がどうこうすることはできないです。店としては、調度品の件については店との示談はすんでいるという一筆しか書けません。宇佐美さんに対する暴力は、別です。」と、前嶋さんは、言った。

そういうわ訳で、宇佐美と、澤谷が、八代さんの立ち合いの元で先に話をすることになった。

八代さんは、言った。
「私は、警備の八代です。私の耳にはいったことは、一切口外しませんが、双方身体に危険が及ぶ可能性がある場合には、適切に対応させていただきます。」







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