くまさんとうさぎさんの秘密
家庭の事情

くまさんちの事情

by熊谷 義明
家に帰ると、洋治とあゆみが先に俺の部屋に上がって待っていた。
「義明、彼女できたって?。」と、洋治がへらへら笑った。
「そういう話じゃないよ」と、俺はあゆみを刺激しないように言葉を選んだ。
「お前、宇佐美綺麗だ綺麗だ、言ってたじゃん。」
洋治が意外なことを言った。
「言ったっけ??」
「何だっけ。あの、家庭科の調理実習の後だ。」
ちょっと思い出した。
家庭科の調理実習の後、宇佐美が、1人で皿洗いをしてた事があった。たかだか皿洗いと思うかも知れないが、それが、ものすごく手際よくて、しかも、お皿や水がたてる音まで綺麗だった。あの、他の人が洗ったときの不愉快な飛び散りやガチャガチャしたおとが全くなかった。
俺は、小さい頃から武道をやって、「型」とか「体のさばきかた」といったものにこだわりがある。道場で雑巾絞る時にも、手を動かす向きというものがみんな決まってる。組み手を考えると、普段の習慣というものは、バカにならない。強いやつは、身のこなしも綺麗だ。
前々から、宇佐美はごはんの食べ方が綺麗だとは思ってたけれど、誰かが皿を洗う手のさばきかたが綺麗だと思ったのは初めてだった。
「あれは、そんなんじゃないよ。あいつ、1人でみんなの皿洗ってたろ。」
「飯食ってるときも、宇佐美の方ちらちら見てんのバレてんだよ。」と、洋治が言った。
「それは、純粋な向上心だわ。」
「どういう向上心だっ。」
「とにかく、そういうホレたのハレたのいうことじゃなくて、皿洗い偉いな、感心感心、俺も見習わなくちゃって、話だよ。」
あゆみが、口を挟んだ。
「私、あの子あんまし好きじゃなかったんだけど、良いとこもあるって、今気がついた。皿は、洗わなきゃだよね。」「でも、今日は何かあったんでしょ。責任とか責任じゃないとか、くまさん、実は脅されてたりしない??」
「昨日いろいろあったんだけど、宇佐美のいないところでしていい話じゃないんだ。言葉じりだけとらえたら、俺が脅されてるみたいになっちゃってるけど、多分あいつ焦ってるだけというか。。」
「あたし、あの子の「私が被害者です」みたいなしたたかな感じが苦手なんだよね。一緒にいて何かあったら、こっちが悪者にされちゃいそうな感じ。」
なるほど。女子に言わせると、そういうことになんのか。
「あゆみは真面目そうなやつ苦手だよな。何か、お嬢さんぽいし。」と、洋治が言った。
「私だって真面目だよ。ああいう子の方が、いざとなったら平気で嘘ついたりしちゃうんだよ。」と、あゆみはちょっと小声で言った。(当たってる。。)
「あゆみ、宇佐美の前では、宇佐美の味方してたじゃん「泣かせてる」とか何とか」
「それは、、とっさの女の防衛本能よ。ああいう子と対立しちゃうと、男ってああいう子の味方でしょ。でも、後から単語だけつなぎあわせて考えてみて、くまさん大丈夫かなって。。くまさんて、優しいじゃん。」
あゆみは、眉をひそめた。
「あゆみの言ってることは分かるような気がするんだけどさ、(びったし当たってるけどさ。。)多分悪気はないんだよ。必死なだけで。言葉じりとらえると、俺脅されてるんだと思うけど、必死なだけで悪気はなさそうだから、今んとこ、俺的にはセーフかな。」
「何言ってるかさっぱり」と、洋治が言った。
「結局何があったのか知らないけど、あたしらに話せなくても、誰かに相談した方がいいよ。宇佐美さんとくまさんだけで話してる状況が心配。」と、あゆみはまた眉をひそめた。
ホント、ありがたい友達なんだけど、俺のこと、お子さまだと思ってんだろうなと、時々思う。
「ひとみに相談する約束だから、大丈夫。ひとみに本当のこと相談する約束で泊める話になってるから。」
あゆみと洋治は、顔を見合わせた。
洋治が言った。
「やっぱり、突然仲良しじゃん。」


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