くまさんとうさぎさんの秘密
by 時田 総一郎

俺は、タバコの煙を燻らせながら、ビジネス誌の就活特集の企業紹介欄を見ていた。
いくら眺めたところで、変更のしようもないのだが、まさかこんなことになるとも思ってなかったし、記事が出た当初は、大した問題でもないと思っていた。

記事のタイトルは、こうだ。
「最新の研究の商品価値、ビジネスチャンスを探り当てる。テクノロジー専門の目利き集団。」

そして、、サブタイトルが悪すぎる。
「中野 馨を口説き落とした敏腕営業マン。」

まずいだろ。ちなみに、中野馨本人は、昨夜これを見て、腹を抱えて笑い転げていた。

俺は今ビジネスホテルのそこそこ良い部屋にいて、ベッドには当の中野 馨がほぼ全裸でスヤスヤと眠っている。

記事の内容としては、俺が中野 馨の新プラスチック、新金属の3次元プリンターにおける実用化に一役かったという話なのだが、ちょっと煽るような見出しが、今となっては何だかやらしい。

これで、関係を持つのは3回目だ。
初めては、酒の勢いで、でも、多分、俺の方はずっと好きだった。
事が終わってから、、彼女は、
「責任とれなんて言わない」と言った。
そもそも、、熊谷義明が、俺に彼女の手を握らせて帰ったことがきっかけだ。
あの時、もし、彼が、彼女の手を俺に預けなかったら、どうなっていたのだろうと、ついつい考える。そもそも、中野馨の相手が俺だけなのかも分からない。

俺は、実は、結婚願望が強い。もう、いい加減母親が勧める見合いでもしてみようかと考えていたところだ。母親は、「孫の顔がみたい」が口癖だ。恋人ができたら、プロポーズして、結婚して、と、漠然と一人で考えていた。

2回目に関係を持った次の朝、俺は、ちゃんと気になることを尋ねてみることにした。
「馨さんさ、いつも俺のことぼろぼろに言うよね。義明君は誉めちぎるけど。」初めての時の成り行きが、俺を臆病にさせてる。

そもそも、俺は、セフレなのか、恋人なのか、そこに何かお互いへの思いやりがあるのか無いのか。

「それは、彼が学生で、あなたが営業マンだからよ。私の注文に答えるのがあなたの仕事でしょ。」
「なるほど、。」
「熊谷君は、理想の息子で、、時田さんは、時田さんの、トキちゃんの赤ちゃんなら、産んで良いかな。。」
俺は、不覚にもむせた。煙草の煙が変なところに入った。話題がとんだと思う。
「それ、どういう意味。?」
彼女は、慌てて言った。
「私、人口受精考えてたの。」
「へ?!」
「精子バンクの利用とかも考えてた。」

結婚通り越して、妊娠か、、。
そもそも、惚れたの腫れたのに興味を持つような女ではなかった。
理系女子中野馨、一筋縄では行かない。
「俺、そんな立派な遺伝子の持ち主じゃないよ。。」
「そんなことないよ。私は、せっかちだけど、時田さん、いつもちゃんとしてるし、私に足りないものみんな持ってるというか。。」
えらく、いつになく誉められてる。。
「それに、子どもが欲しいって言ったって、やっぱり体に知らない男入れるのは、ちょっと勇気が必要で、。それなら、時田さんの方が良いかなって。」

えらく、不器用で可愛いことを言われたような気がする。

どうも、俺は、初めての男ではないようだ。中野馨はなにも言わないけど、状況からそうだと思われる。
俺は良いけど、他の男ならドン引きかもしれない。何の約束も申し出もなく、セックス2回で赤ちゃん産んでも良いよとの申し出だ。
普通、俺がどういう考えの持ち主か、確認が先じゃないのか??

俺は、とりあえず、避妊は続けることにしたけれど、もう、結婚を申し込もうと思ってた。
母ちゃん、ごめん。ちょっと、いや、かなり変わってるけど、俺は彼女が好きです。あなたの孫を、彼女に産んでほしいです。

ところが、このタイミングで記事が出た。。間が悪すぎだ。
とりあえず、会社で今、この関係を口外することができない。ちょっとほとぼり覚めるのを待つしかない。









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