くまさんとうさぎさんの秘密
by 宇佐美 優那

「前嶋さん、根回し良すぎ。。」と、くまさんがつぶやいた。

私達が家を出ようとした時に、八代さんが家の前でクラクションを鳴らした。
「義明、前嶋さんが、お前拾ってこいって。俺、たまたまこの近所にいたんだよ。」と、八代さんが言った。

私達は、八代さんに送迎してもらって、病院に向かい、前嶋さんからビーフシチューを受け取って、また、下宿に戻ってきた。

私達は、今、八代さんが運転する車のなかにいて、くまさんはビーフシチューの入った包みを持たされている。

ひとみさんはしばらく入院することになったが、今日は前嶋さんが付き添うことになった。
ひとみさんは、何か、様子がおかしかった。彼女は何も言わなかったが、うなずいたり、首を横に振ったりはしていた。疲れているだけにも見えたが、何か違和感があった。

前嶋さんが付き添うことに彼女が頷いたこともあって、私達は、二人を置いて戻ることにした。ひとみさんの荷物一式、今はくまさんの下宿にある。

今のところは、脱水症状だという以上に何も聞かされてなかったが、疲れたひとみさんの顔は、ただ事ではない感じだった。今朝家で手をふってくれた時とは、別人のようだった。

くまさんは、何度も、何度も、ひとみさんに謝っていた。。自分がリフォームを始めてしまったせいだと話していた。。自分が送り迎えすれば良かったとも話していた。。

今日に限って言うと、くまさんは、すっかりまいあがっており、前嶋さんとひとみさんの方が落ち着いていた。

一旦部屋の外に出てから、前嶋さんに、くまさんが言った。
「義明、お前には、何一つ落ち度はない。でもな、今は、お前の妹がピンチだ。」
「ごめん。本当にごめんなさい。」くまさんは、前嶋さんにも、こればかり繰り返していた。
「悪いのは、全部俺だ。お前は、本当に良い兄ちゃんだ。」と、前嶋さんは言った。
くまさんの目が、少し潤んでいる気がした。。
「ピンチの時は、頑張るときだ。お前は、家に帰って、彼女にご飯を食べさせるんだ。」前嶋さんは、私を指差した。

病室のみんなが、たまたま居合わせた看護婦さんまで、私に注目した。「食べさせるんだっ」て、、子どもじゃないんだから、ちょっと恥ずかしい。
固辞しようとも思ったが、前嶋さんが何を意図したのか、分かったような気がしたので、余計な事は言わないことにした。

多分、前嶋さんは、私に、くまさんを連れて帰ってほしいんだ。。









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