不良に恋した私 ~Is there love in the air?~
12、あなたからもらった、一番幸せなキス ~Is there love in the air?~
まだ暑さが残る、九月のある日。

いつもだったら、丸山くんが待っていてくれるところに拓先輩が居た。だから、丸山くんに何かあったのは、すぐにわかった。

「おはよう。……丸山くんは風邪?」
「はよ。ああ、アイツ風邪で休むって、それ伝えに来た」
風邪、大丈夫かな?……お母さん仕事だったら、一人で困ってないかな?……そんな私の心の中を読むように拓先輩は言葉を続けた。
「母親、丁度休みだったみてぇーだし、心配いらないよ」
その言葉を聞いて、私はひとまずホッとする。じゃあ、学校終わったら様子を見に行こう。何かもって行ってあげようかな……何が好きかな……頭の中はすぐに丸山くんのことでいっぱいになった。
だから、目の前にいた拓先輩の存在をすっかり忘れてしまっていた。

「おーい、早起きして伝えに来てやったのに、俺になんか言うことないの?」
「あ、ごめん、ありがとう!助かったよ」
拓先輩に改めてお礼を言いながら、ふと思い出した。
そういえば……。丸山くん、私と拓先輩が仲良くするのあまりよく思っていなかったはずだ。あ、でも、伝言を頼んだってことは、二人の間のわだかまりはなくなったのだろうか。

「にしても、携帯持ってねぇーなんて、何時代の人間だっつーの。スマホぐらい持てよ」
私は携帯もスマホも私は持っていなかった。
だって、今まで友達なんて居なかったから、使うことなんてなかったから必要なかった。

「ホントごめんね」
「しゃーねぇなぁー、俺がスマホプレゼントしようか?」
ん?スマホとかって通話料とかもかかるんじゃあ?……何も考えていないのか、それともただの冗談なのか、拓先輩がそんなことを軽く言う。

「まあ、美弥ちゃんが、もれなく、俺の彼女になってくれたらだけどな」
なんだ、やっぱりいつものただの冗談だったようだ。
拓先輩の考えてることはイマイチよくわからない。

「なあ、さぼらね?学校」
「え、あ、さぼる?!」
戸惑う私をおかまい無しに、拓先輩は切符を二人分買うと、目的地も告げずに私を電車の中に放り込んだ。

どうしよう……。
朝から学校にも行かず、そのままサボったことなど、今まで一度もなかった。学校から親に連絡がいったらお父さんに迷惑がかかるかもしれない。

「美弥ちゃん、こういうの初めてだろ?でも、大丈夫だよ」
拓先輩は持っていたスマホでどこかに電話をかけだした。

相手に繋がると、拓先輩がいつもよりちょっと低めの渋い声を出した。
「いつもお世話になっております。一年四組の金井美弥の父ですが、娘が風邪を引いたので今日は休ませます。はい……よろしくお願いします」
拓先輩は電話を切った。

「もしかして、学校?」
「ああ。これで親に連絡行くことはまずないよ」
こんなこと頻繁にやっているのだろうか。あまりに手馴れたことに私は言葉も出なかった。

「あ!拓先輩は?電話しなくていいの?」
「俺?俺はさぼっても大丈夫だよ。うちは、放任通り越して放置されてるから」
ほったらかしってこと?……どういう家庭環境なんだろうっと思ったが、なんの関係のない私が突っ込んで聞く話でもない気がしたので、あえてそれ以上は聞かなかった。

「これからどこいくの?」
「俺の行きつけのところ」
どこに連れて行かれるのかとドキドキしていたら、ついた先は動物園だった。

学校サボっていくところって、もっと怖いところをイメージしてたから急に肩の力が抜けてホッとした。

「何?もっと、エロイところとかがよかった?」
私は拓先輩の言葉に、顔を真っ赤にしながら首を激しく横に振った。
「ほんと、美弥ちゃんはからかうと可愛いな」
私が、拓先輩の冗談にいちいち反応して照れて赤くなるからおもしろいらしい。
丸山くんはそういう私をわかっていたから、拓先輩と私が仲良くするのを心配していたのかも。
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