銀狼と緋色のかなた
走り去ったかなたは、空月の想像よりも簡単に見つかった。

かなたが横たわっていたのは、御神木の隣に置かれているかなたの両親の墓前だったからだ。

「かなた,,,!」

空月は真っ白で華奢な狼の姿をした、弱り果てたかなたを抱き寄せた。

「俺を置いて逝くな」

空月の切なくて低い声が暗闇にこだました。

「まだ何も伝えてない。お前、やっと今日俺と話ができるって楽しみにしてただろ?自分だけ好き放題言い逃げするなよ」

悲しげな表情を浮かべながらも空月が口角を上げて、かなたに呟いた。

"ふふ、空月のツンデレ健在"

息も絶え絶えのかなたも、強がる空月の言葉に暖かい何かを感じていた。

闇に引き込まれそうになるのを必死で絶えながら、かなたは空月を見つめていた。

"最後に空月の腕にいられるなんて、私は幸せ者"

かなたは、遠くなる意識の中で、空月の顔を見ながら天に召される幸せを噛み締めていた。

「かなた,,,、かなた!」

とうとうかなたは気を失ったようだ。だが、まだ息はあるし、心臓も動いている。諦めるわけにはいかない。

「私が手がかりを探してくるわ。それを見つけるまで、空月はかなたの側についていてあげて」

はるかは、空月にかなたがこれまで守ってきた緋刀を預けた。

「これがかなたを守ってくれると思うの」

空月ははるかの緋色の瞳を見つめて頷いた。

「僕もはるかと一緒に可能性を探すよ」

ヒロトがはるかの隣に立ち、決意を込めてその手を握りしめた。

はるかとヒロトは連れだってその場を去るのを、かなたを抱き締める空月が見送った。

命を呈して3人を人形に戻してくれたかなたの命をなんとかして救うために、少しの可能性にもかけたい。

3人は同じ気持ちだった。
< 29 / 41 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop