銀狼と緋色のかなた
1年2ヶ月前のブラッディムーン。

その日、ウォルは狼になった。

ウォルの本名は空月(くげつ)という。

空月の祖先は、人狼である"銀狼"の一族。銀色の髪と瞳が特徴的だ。

成人した日からちょうど半年後にその年のブラッディムーンがやってくる。

空月の一族は、同族で村を作るのではなく、商業が盛んな西の街で普通の人間に紛れ込む生活を選んで暮らしていた。

空月は幼い頃から、両親に

『成人したら街を出て、同じ人狼の伴侶を見つけなさい。その年の最初のブラッディムーンまでに運命の人に出会うこと。それが我々に課せられた宿命。できなければ皆、一様に狼になる』

と教えられてきた。

正直、そんなもののために人生の伴侶を決めたくはない。自分は一人の気ままな生活も気に入っている。

とはいえ、促されるまま一旦は街を出た。

それから出会った女は皆、空月の外見だけに吸いよせられてくる。人狼なんて重い運命を背負っているかどうかもパッと見ではわからない。

その場限りの欲望を見せつけてくる女性達に出会う度に、すべてが面倒になり、空月は狼になる運命を選んだ。

狼の毛皮を狙う人間に襲われたり、その日の食べ物に困って倒れ込んだり、狼も楽ではなかったが、西の街の東側に広がる森は広大で、簡単に人間も踏み込んでこない。

元々欲のない空月は、このまま狼として何の刺激もないまま後数年生き長らえるのだろう、とボンヤリ考えながら毎日を過ごしていた。
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