社内恋愛狂想曲
私は料理を作るのも後片付けも本当は好きでも得意でもなく、必要に迫られてやっているだけであって、どちらかというと面倒だと思うし、特に一人のときはできるだけ簡単に済ませてラクしたい。

それでも頑張って料理を作っていたのは、護に喜んで欲しかったからだ。

「志織の作った料理はうまいなぁ」と言って美味しそうに残さず食べてくれるのが嬉しくて、護が好きな料理を一生懸命作った。

だけど最近の私は護にとって“いつでもタダで食事をさせてくれる便利で気前のいい母親みたいな人”くらいなものだろう。

焼けたパンをトースターから取り出してマーガリンを塗り、ハムとチーズを乗せてキッチンで立ったままかじる。

パンくずをシンクに落ちるようにしておけば、皿を使わずに済むから、洗う手間が省けてラクだ。

行儀は悪いけれど誰が見ているわけでもなければ迷惑もかけていないし、私一人が納得していればそれでいい。

護が見ていたら呆れた顔をして「行儀悪いな、女のくせに横着するなよ」と言うだろう。

……ただ食べるだけで洗い物のひとつもしたことないくせに。

そういえば専業主婦をしている友人が以前会った時に、自分で動くことも妻を誉めることもせず細かい文句ばかり言う夫の愚痴をこぼしていた。

私はまだ主婦ではないけれど、今の私はどことなくそのときの彼女に似ているなと苦笑がもれる。

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