社内恋愛狂想曲
何度目かの食事に誘われた帰り道、護はそれまで見せたことのないような真剣な顔で言った。

“好きです。俺と付き合ってください”

まっすぐな気持ちが素直に嬉しくて迷うことなくうなずくと、護は両手で私の手をぎゅっと握り嬉しそうに笑った。

私自身は全然知らなかったけれど、後で同僚から聞いた話によると、その頃私は営業部に勤めていた同期の伊藤くんと噂になっていたそうだ。

伊藤くんとは新入社員研修のグループが同じだったことがきっかけで仲良くなった。

研修が終わった後は同じ営業部に配属になったこともあって更に仲良くなり、他の部署に配属になった同期のメンバーも誘って近況報告を兼ねた飲み会を開いたりもした。

会社帰りに一緒にお茶を飲んだり、何度か二人で食事をしたこともあるけれど、私と伊藤くんとの間には噂のような男女の関係は一切ない。

一緒にお茶や食事をしても色気なんてまるでなくて、もっぱら世間話や仕事のことなど他愛ない話ばかりしている、ただの気の合う同期だった。

だけど護は噂が本当だったらどうしようと焦っていたそうだ。

護にとって私は同じ職場の先輩だし、ひそかに私に想いを寄せながらも、もしダメだったらと思うとなかなかその想いを打ち明けることができなかったけれど、私が異動したのを機に行動を起こすことにしたらしい。

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