社内恋愛狂想曲
「彼女のこと、好きじゃないの?」

女からの思わぬ問い掛けに、男は少し驚いた様子で幾度か瞬きをした。

「いや、好きだけど? 」

「じゃあ彼女とすればいいのに」

そう言われると男はほんの少し考えるそぶりを見せた後、まわしていた手に力を込めて、女の腰を更に引き寄せた。

「それはそれ。でもこっちはマミちゃんとする方が気持ちいいから好き」

「ひどーい、そんなこと言ったら彼女がかわいそう」
 
おかしそうにクスクス笑う女は、勝ち誇ったように見えこそすれ、かわいそうなんて思っているようにはとても見えない。

「マミちゃん以上に体の相性がいい子はいないんだからしょうがないじゃん。なんなら今から確かめる?」

「ふふ……残念だけど、そろそろ戻らなきゃ。続きはまた夜にしよ。ね?」

「わかった、じゃあもう少しだけ……」
 
私に見られていることにまったく気付いていない二人は、再び唇を重ね濃厚なキスをしはじめた。

現実とは信じがたい光景を目の当たりにしてしまい、しばし呆然として立ちすくんでいた私は、手に持っていたメモを床に落として我に返り、慌ててそれを拾い上げると足音を立てないように急いでその場を離れた。


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