社内恋愛狂想曲
少し甘えた声でそう言うと、下坂課長補佐は悔しそうに唇を噛んだ。

「なんのことかしら……。私はただちょっと佐野さんをからかっただけよ。勘違いしないでちょうだい」

みんなの前で恥をかかされた下坂課長補佐は荷物を持って立ち上がり、みんなからの視線を背に浴びながらそそくさと店を出ていった。

「負け犬の遠吠えだな」

「いや、あれは犬ちゃうで。狐やろ?」

伊藤くんと葉月はそんなことを言いながらおかしそうに笑ってハイタッチしている。

三島課長は私を抱きしめる手をゆるめたかと思うと、そのまま私の体にもたれかかった。

「三島課長?!」

「ごめん……もう限界……。気合いでなんとか頑張ったけど……ホッとしたらまた酔いが回ってきた……」

「えぇっ?!」

有田課長は私についてくるように言うと、三島課長の体を支えて座敷に連れて行き横にならせた。

そして私にそこに座るように促し、私の膝の上に三島課長の頭をそっと乗せる。

「三島課長、具合悪いのによく頑張ったなぁ。俺、佐野主任には絶対に手は出さない。佐野主任が俺の下にいるうちは悪い虫がつかないように見張っててやるから、安心していいよ」

「約束ですよ……」

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