社内恋愛狂想曲
『新幹線のチケットと必要な資料を渡すから、一度会社に寄ってくれる?』

「わかりました」

『申し訳ないけど頼むよ。水曜の夕方にはこっちへ帰って来られるはずだから』

だいたい水曜日は毎週バレーの練習があるし、出張から帰ったばかりだと言えば、練習を休む口実にもなる。

電話を切って、着替えや化粧品を急いでバッグに詰め込み、もし足りないものがあったら向こうで買うことにして、朝食も取らずに家を出た。

一度会社に寄って必要なものを受け取ったあと、再び駅に向かった。

資料を詰めた分だけさらに重くなったバッグをかついで、この荷物を持ってコンビニへ寄るのは大変だから、朝食は新幹線の車内販売で調達することにしようなどと思いながら歩いていると、正面から会社に向かって歩いてくる潤さんに遭遇した。

……どんな顔をしていいかわからないから、会わないようにしようと思っていたのに。

それでも無視して通りすぎることはできないので、挨拶くらいはしておこうと頭を下げる。

「おはようございます」

「おはよう……。朝からそんな荷物をかかえてどうした?」

いつも通り……いや、お互いの気持ちを伝え合う前と同じ態度の潤さんに、胸の奥が鷲掴みされたような痛みを覚える。

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