正しい『玉の輿』の乗り方

『菜子。それってチャンスじゃない!もういっそうのことそのイケメン御曹司を狙っちゃいなさいよ!』

その夜、電話をよこした夕夏に樹さんのことを話すと、興奮した様子でそんなことを言い出した。

「だって大企業の副社長夫人よ? いや、近い将来社長夫人になれるんだから、まさに菜子が求めてた玉の輿婚じゃないの! それに、菜子だって本当は彼のこと気に入ってるんでしょ?」

夕夏の暴走は止まらない。

「あのさ、夕夏。私の話をちゃんと聞いてた?」

『聞いてから言ってるんでしょ? 菜子の言葉の節々からね、“彼に惚れました~”っていう心の叫びが伝わってきたんだから~』

「いや、あのね。仮にそうだとしても彼は半年後には結婚するんだからさ。彼を狙ったって仕方ないじゃない!」

『そんなのどうせ政略結婚でしょ? まだ可能性なら十分あるわよ。あのね、菜子。携帯小説の世界にもよくあるのよ。貧乏なヒロインが大企業の御曹司に恋しちゃう話。まあ、彼には大抵社長令嬢の婚約者がいて、その意地悪な彼女にとことん邪魔されるんだけどね、彼が本当に愛してるのはヒロインなの。ふたりは紆余曲折ありながも、からなず最後には結ばれるから菜子だって大丈夫よ』

夕夏は自分の好きな携帯小説に当て嵌めて、自信満々に言った。

「いやいや、大丈夫な訳ないでしょ! っていうか、私は別に樹さんのことなんて好きじゃないし。そんな現実味のない話より、今は木曜日のパティーの方が大事だよ。佳子の命を助けてくれる人を早く探さなきゃいけないんだから」

そう、私には不毛な『恋』をしている時間なんかないのだ。

『そうだね。樹さん以上の人が見つかればいいね』

夕夏の言葉が切なく耳に響いた。


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