正しい『玉の輿』の乗り方

「実は今日、会社のパソコンで調べたんです。子会社の薬害訴訟の記事載ってました。赤字を抱えて、株価も下がったままで、新薬の開発までストップしてるそうじゃないですか。私にステーキなんて奢ってる場合じゃないと思います」

「もうその件は手を打ってある。まだ公にはできないけど、俺が早乙女コーポレーションのお嬢様と結婚して、会社も早乙女グループに入るんだよ。それで問題は全て解決するから」

樹さんは早口でそう言った。

「そう………でしたか。すみません、なんか。余計なこと言って」

「あ、いや………。でも、そうだな。今日はステーキやめて菜子の家ですき焼きでも食うか」

思い直したように樹さんが言った。

「え? うち来るんですか?」

「おまえが言ったんだろ? もったいないって。だから今日は菜子んちで我慢するよ。狭くてボロくて寒いけどな」

「そんな悪口言わなくても」

「うそうそ。俺、結構気に入ってるよ。狭くてボロくて寒いけどなんか落ち着くし」

「狭くてボロくて寒いは余計です!」

私がむっと睨むと、樹さんは『ごめん』と笑った。

「じゃあ、決まりだな。よし、菜子。今日はいい肉買って帰るぞ。『もったいないから肉は入れない』とか言い出すなよ」

樹さんはそう言って再びハンドルを握ったのだった。

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