正しい『玉の輿』の乗り方
13 最終章

樹さんが全てを暴露したパーティーの翌日、財前副頭取と早乙女社長の二人は贈収賄の容疑で逮捕された。

そして、今回の件で宮内製薬が負った負債は全て『あおば銀行』が賠償することとなり、中断していた『サクラール』の治験も再開されることになった。

入院中だった樹さんのお父様も社長職に復帰して、これで全ての問題は解決した訳なのだけど……。

「ねえ、菜子。結局、彼とはどうなってるの? あれから三カ月経つけど何か進展は?」

我が家のリビングでくつろいでいた夕夏が、不意にそんな質問を投げかけてきた。

「進展なんて何もないよ。だって、まだニューヨークから帰ってきてないんだし」

そう。
樹さんは今、訴訟問題の後処理やハピネス社の立て直しの為にニューヨークにいる。

【戻ったら菜子とのことをきちんとするから。それまで待っていて欲しい】

あのパーティーの翌日、樹さんはそんなメールを私によこして日本を発ってしまったのだ。

「いつ帰ってくるかも分からないの?」

「うん。メールは時々くるけどね。とにかく忙しそうで」

「そっか。でも、まあ…二人が両想いなのは確かなんだし、ちゃんと菜子との将来を考えてくれてるわよね。佳子ちゃんの手術費用だって、彼が全額出してくれていたくらいなんだから」

夕夏はそう言って、ニコリと笑った。

実は一カ月ほど前、アメリカのピッツバーグの病院で佳子の心臓移植手術が無事に成功したのだけど、その知らせを聞いて樹さんと共にお見舞いに来てくれた中谷さんが、病室でバラしたのだそうだ。

手術費用の3億円は、樹さんが佳子の為に自らの不動産を売却して用意したお金だったのだと。

『やっぱりお付き合いしていたんじゃない! お母さん、感激しちゃったわ! 盆と正月が一度に来たみたい』

佳子の手術も成功して、更に私が玉の輿に乗れるなんてと、母は舞い上がりながら電話をよこしてきた。

本当は、まだ結婚の話どころか、付き合ってさえもいない訳なのだけど。

母の言葉を私は否定しなかった。
私も密かに期待していたからだ。
帰国したらプロポーズをしてくれるに違いないと。

「話は変わるけど、佳子ちゃんの帰国まであと一週間なんだね」

卓上カレンダーに書き込まれた花丸を見て、夕夏がふと口にした。

「そうそう。佳子が帰ったら実家でパーティーするから、よかったら夕夏も来てよ」

「ほんと? じゃあ、私もパーティーの準備手伝ってあげるわよ。おじさんも佳子ちゃんの帰国に付き添う為にアメリカ行っちゃうんでしょ? 菜子ひとりじゃ頼りないからね」

「アハハ! それはありがとう」

と、そんな会話で盛り上がった日から、あっという間に一週間が過ぎて、佳子の帰国の日を迎えた。



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