クールな次期社長と愛されオフィス
いい香りだ。

海外で生産されている紅茶よりも、甘くて品がいい。

本来のとがった香りが全くしなかった。

カップに注いで、自分のデスクに持って行く。

まずはストレートで。

ふわっと香りが口の中に広がる。

「おいしい」

思わずつぶやいていた。

すぐに飲み干すと、まだポットに残っていたものを全てカップに注ぐ。

少し冷えてしまって時間の経った紅茶。

普段なら飲まないしお客にも出さないようなものだけど。

一口飲んで驚く。

また違った味わい深さが口に広がったから。

「嘘。こんな紅茶が日本で生産されてるなんて」

この間に部長が言ってたっけ。

「日本の技術力を甘く見るなよ。何一つとったって世界のどこにも負けていない」

って。

その言葉が頭の奧でぐるぐる回っていた。

そうか。

いかに私が狭い世界でしかものを見て来てなかったかってことだよね。

灯台もと暗し。

私は急いで他のパッケージの紅茶も淹れて試していった。

そして、その生産者を調べて手帳に書き写す。

部屋から見える空は真っ青だった。

今頃、部長は空の上だろうか。

私がこの紅茶を飲んで驚いてる姿を想像して笑ってるんじゃないかしら。

いや、私のことなんか思い出すわけないか。

仕事の鬼だもんね、部長は。

そんなことを一人で考えながらパソコンを広げた。



< 20 / 120 >

この作品をシェア

pagetop