クールな次期社長と愛されオフィス
「社長がもしお前に辛く当たるようなことがあれば、それは全て俺の責任だから遠慮せずに言ってほしい。俺がお前を社長から守るから」

すぐ横にいる部長は私の全てを包み込むような優しい眼差しで見つめていた。

その目から自分の目を背けることが憚られるほどの熱い眼差し。

そんな風に誰かから私を「守る」とか、優しい瞳で見つめられたことは初めてだった。

体中が熱くなって、頭の中が真っ白になる。

しばらく見つめ合ったまま、なんとか言葉を絞り出した。

「あ、ありがとうございます」

部長は優しく微笑みながら頷くと、ベンチから立ち上がった。

「そろそろお腹空いてこないか?」

そういえば。

あまりに現実離れした空間にいたから自分がお腹が空いたかどうかも麻痺していた。

「この庭園の奧に料亭があって予約している。そろそろ時間だから行くか」

「その料亭って」

「もちろん貸し切りだ」

当たり前だろ、と言わんばかりの口調で私の少し前をゆっくりと歩くその後ろ姿は、どうしたって私とは違う世界に生きている人だった。

さっき一瞬部長が身近に感じてしまった自分を恥じた。

あの優しい言葉と眼差しも、上司として私を心配していくれていただけだ。

自分自身に必死に言い聞かせながら、部長の後に続いて料亭に入って行った。

いかにも敷居の高そうな佇まい。
 
部長が玄関をくぐるやいなや、料亭の女将の仲居がすっと現れ深々と頭を下げて迎える。

私まですごく偉くなったみたいなもてなしを受けて、うっかりしたら調子にのっちゃいそうだ。

座敷からは庭園が一望でき、2人で使うにはもったいないくらい広くて贅沢な部屋。

次から次へと運ばれてくる料理は、どれも味わったことがないくらいおいしくて美しく盛られている。


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