理系教授の秘密は甘々のはじまり
"コンコン"

数十分後、波実の部屋のドアがノックされた。

あまりの早さに、波実は髪を乾かす暇もなかった。

自宅から持ってきたスウェットの上下を着用して、濡れた髪を拭くのもそこそこにドアを開けた。

「確認もしないで開けるなんて不用心だぞ」

"夜に教え子のホテルの部屋に押しかける自分はどうなのか"

波実はそんな言葉をグッと飲み込んだ。

なんせ、明日の学会発表の練習に付き合ってくれるというのだから文句は言えない。

いや、本来は文句を言っていい状況なのだが、波実には普通がわからないため、黙って受け入れていた。

一方の葉山も、濡れた髪にスウェットの上下。それはコスパの良い某SHOPの製品。そう、期せずして二人の格好は"お揃い"だった。

「わあ、私達お揃いですね」

波実は照れもせずに事実を嬉しそうに告げた。

「そうだな」

葉山が口角を上げ、波実のベッドに腰かけて言った。

「じゃあ、始めようか。原稿読んで。6分きっかりだぞ」

波実は慌てて原稿を手に取り、本番を意識して原稿を読み始めた。

「やり直し。ここは回りくどいし、焦点がボヤけてる」

波実を隣に腰かけさせると、葉山は波実に顔を寄せてペンで原稿の添削を始めた。

同じシャンプーの香りがする。葉山の凛々しい顔と濡れて幼くなった髪型にドキッとする。

"いかん、今は集中、集中"

慣れない状況ではあったが、教授直々の指導なんて滅多にない。

それからしばらく、鬼の葉山の指導は続いた。



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