理系教授の秘密は甘々のはじまり
波実が教授席に近づくと、葉山は数枚のA4用紙の束を差し出してきた。

「今週末の学会、早島が行けなくなった」

「えっ?早島くんが筆頭研究者として発表するはずじゃ,,,」

「今抱えてる研究、製薬会社とコラボしてるだろ。治験についての説明会が開かれるんだが、助教の仲代と早島も参加しなくてはならなくなった」

「それじゃあ誰が,,,」

「お前しかいないだろ」

「えー?私も抱えてる研究が,,,」

言いかけた波実を葉山の鋭い眼差しが射ぬいた。

「や、やりますよ,,,」

「そうか」

波実は葉山から資料を受けとると、トボトボと自席に戻った。

波実は学会発表が苦手である。これまではすべて早島に任せて逃げようとしてきた。

しかも、今回は葉山教授も参加。葉山は学会2日目の特別講演を任されているのだ。

"宿泊するホテルを予約しなくちゃなー"

そんな心の声が漏れていたのか

「あー、そうだ。鈴木、宿泊先だが早島と名前を差し替えるだけで良かったから大丈夫だ」

「でも、私、禁煙ルームでないと,,,」

「ちゃんと押さえてある」

「ありがとう、ございまーす,,,」

"ついてないな。週末の癒しは来週末までお預けかー"

ほどなくして准教授の土屋と1年生2人もやって来た。

俯く波実を眺めて、葉山が不敵に笑っていたことは誰も気づいていなかった。
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