天才策士は一途な愛に跪く。

プロローグ

わたしには忘れたい人がいる。

ううん・・・。
本当は忘れたくない人がいる。

今この瞬間にも蘇ってくる鮮やかな記憶がある。

窓側から二列目の一番後ろの席に私は座していた。

昼を過ぎた柔らかな日差しと、優しく心地よい風が大きく開かれた窓から

彼のいる席へと吹き込んでくる。

眩しいものでも見るみたいに私は目を細める。

教科書で視界を遮った私はこっそりと一列窓側の隣の席を眺めていた。

サラりと流れる色素の薄い茶色い髪が私の隣の席で風に乗ってふわりと揺れる。

まるで絹糸のような細い髪の毛に色素の薄い肌が映える。

見とれるような整った造作の顔。

艶のある大きな瞳を見開いて真っすぐに前を見据えていた。

大きなアーモンド型の瞳に光を宿して、眠気すら感じる麗らかな日向の心地よさとは

程遠い太陽のような光を放つ人がいた。


この学校で知らない人はいない。

この町で彼を・・。彼の家の名を知らない者などいなかった。