天才策士は一途な愛に跪く。
王子様の約束。

震える右腕を、左腕でぐっと握る。

足を踏み出す感覚すら現実感がなくて
ふわふわと浮いた感じがした。

唇は青ざめて
喉がカラカラに渇いていた。

琥珀色の瞳は涙で滲んでいた。


晶はどんな顔をしてるんだろう・・。

痛みに耐えた青く、茶色がかった瞳が思い出される。


耳の感覚を遮断して
なるべく彼女の声を聴かないように・・。

「・・・駄目だ。僕には、出来ない。」

足を止めようと眉間に皺を入れて、目を閉じた。

その時だった。

「待っ・・・。ドサッ」

鈍い音が聞こえて、振り向いた先には晶が倒れていた。

「晶っ・・!!」

気づくと彼女の元へと足は素早く動いた。

あんなに、さっきまで鉛のようだったのに・・。

「アオイ・・!!彼女は・・っ。」

蹲って支えているアオイに声を張り上げた。

冷えた視線のアオイが僕を見上げた。

「駄目だよ、聖人・・。解るでしょ?」

「君だけじゃ、彼女は守れないよ。」


「そう、利権を求める人間がこの世界中に、どれほどいるのかわからない・・。」

その言葉に、グッと唇を噛み締めた。

少しだけ鉄の味を帯びた痛みが広がる。

「解ってる・・!!解ってるんだよ、アオイ・・。」

青い瞳は苦しそうに歪む。

聖人の想いが痛いほど伝わっているアオイは、苦し気に目を背けた。


彼女の研究は、競い合って手にしたいものだった。

アルバンの研究で南條が手にした利益は数兆円以上だった・・。

彼女ごと手に入れようとする南條みたいな人間なんて、この先きっと湧いて出てくる。

「もう、危険な目に晒すわけにはいかないと思ってるんだよね。
アキラには、その為の後ろ盾が必要なんだ・・。君が、それを一番理解してるだろ??」

晶の青ざめた頬にそっと手を触れる・・。

冷やりとした感触と、滑らかな肌の感触を感じた。

ずっと触れたかった彼女に漸く・・。

やっと彼女に触れられたのに。

「そうだ・・。よく解ってるよ。」

遠い昔に、目の前で亡くしたある研究者の命の灯が消え去る瞬間を思い出す。

痛みを覚えて、眉を顰めた。
< 128 / 173 >

この作品をシェア

pagetop