時を繋ぐ真実の物語<「私の獣」番外編>
「なんだか、おどろおどろしい邸ですね」


やがて、地図を頼りに二人はケプラー邸に辿り着いた。辻馬車から降りるなり、目の前にそびえる邸を見上げながらカールが不安げな声を漏らす。


三階建てのその屋敷は蔦でおおわれており、かなり老朽化していた。邸をぐるりと取り囲む鉄柵も、錆びが目立つ。春だというのに花のない庭は殺風景で、ところどころに置かれた裸婦像が不気味さを助長させていた。


アメリは、門扉に設置された鐘を鳴らす。間もなくして世話係らしき老婆がよたよたと姿を現し、二人を玄関先まで案内した。





奥に引っ込んだ老婆を待つこと数分。ようやく玄関先に、肩下までの黒髪を束ねた長身の男が現れる。年は、二十代後半といったところだろうか。黒曜石に似た瞳は冷たく、どこか他人を見下しているような雰囲気がある。


アメリが丁寧にあいさつをしても、男は仏頂面のままだった。


「あいにく、ロナルド・ケプラーはいません。用だったら、私が聞きましょう」


「失礼ですが、あなたはどなたですか?」


「ロイ・ケプラー。ロナルド・ケプラーの息子です。占星術なら、親父以上にたしなみがある。家業を切り盛りしているのも私です」


アメリは目を瞠った。占術師というイメージから、勝手に暗黒のローブを身に纏った顎髭姿の老人を想像していたからだ。けれども目の前の男は年も若く、装いも占術師のそれとは程遠い。


男にしては白めの肌に、濡れた漆黒の瞳の美青年。銀模様の施された漆黒のロングベストに白のブラウス、すらりと伸びた漆黒の下衣を着こなす姿は、どこぞの若貴族のようだ。

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