時を繋ぐ真実の物語<「私の獣」番外編>
カイルが必至に怒りを呑み込もうとしているのが、気配で分かった。


カイルは不安なのだ。二年間眠り続けたように、アメリがまたどこかに行ってしまうのではないかと。


けれども、アメリのことを思って、その怒りを押し殺している。アメリを、縛りつけたくはないのだろう。


それほどまでに、アメリのことを大切に思ってくれているのだ。


たまらなくなって、アメリはぎゅっとカイルに抱きついた。


「カイル様、愛しています」







――『愛なんて、所詮そんなものです』


ケプラーの、冷たい言葉を思い出す。アメリは、心の底から悲しくなった。


こんなにも愛しいと思う気持ちを、偽物だと言われたことが悲しい。


ケプラーはアメリに反論の隙を与えなかったが、アメリははっきりと自覚している。


カイルがこの国の王ではなく、騎士でも、平民でも、人間以外の何かでも――アメリは間違いなく彼を心から求めるだろう。


彼の全てが愛しくてたまらないこの気持ちを、否定されたくない。








「……どうした、急に」


困惑しつつもアメリを抱きしめ返したカイルが、優しく髪を撫でる。


「カイル様、お願いがあります」


「なんだ」


「この先しばらく、私は今日のように外出するかもしれません。けれども、これだけは覚えていて欲しいのです。私は、あなたのもとに必ず帰って来ます」


ロイセン王国は、虹の都として世界に名を広めつつある。


アメリが眠っていた二年の間に、アメリの回復を願い、カイルが城中を色とりどりのガラスで装飾し、王都リルべにあらゆる国からガラス職人を呼び寄せたからだ。


色は、各々が色言葉と呼ばれる意味を持つ。


この城は、アメリに対するカイルの無数の愛の言葉に満ちていた。


時が流れ、肉体が消滅しても、この城に溢れた色とりどりの光をアメリは見つけ出す。


そして永遠に、カイルの傍に寄り添うだろう。




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