冷酷な王さまは愛し方を知らない


そういえば…。
ふと、クリスさんの事を思い出す。

王城で会ったクリスさんは、ここで会うクリスさんとは違う人に思えた。
サーシャさんには、言えない。


――サーシャの中で俺は、時々くる愛想のいい男の人でいたいんだ。血生臭い俺を、知られたくない


そう言っていたクリスさん。
それに、きっとサーシャさんが知ることになれば、余計な心配が増える。


一度経験したあの不安。
怪我をして帰ってきたアルさまを見た時の…。


あんなの、もう経験したくない。



きっとクリスさんもそれをわかっていて話していないんだ。
知らなければ、そんなことも知らずに笑顔で迎えてあげられる。
余計な不安や恐怖に駆られることもなく。


クリスさんの、優しさ。
それ程サーシャさんを大切に思っているという事だろう。



でも、サーシャんにとっては?
なにも知らないことが、幸せなんだろうか。

確かに私は、あんな思いもうしたくないと思ってしまうけれど。
それはサーシャさんも同じだろうか。



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