うぶ婚~一途な副社長からの溺愛がとまりません~
食べて元気を出して欲しい。私の前では無理しないでほしい。……けれどそんな私の願いも虚しく、彼はやっぱりいつも通りで、決して私の前では弱い姿を見せることも、弱音を吐くこともなかった。

そして断る私を押し切って、疲れているのに自宅まで送り届けてくれたんだ。

「それじゃ日葵、今日は本当にありがとう」

「いいえ。……あの、廉二郎さん」

「ん?」

首を傾げる彼はいつもの彼だ。……それが私には辛い。

「あの……無理だけはしないでくださいね。それと私のこと、いつでも呼んでください」

違う、こんなことを言いたいんじゃない。「もっと私を頼ってください」「甘えてほしいです」その言葉が出てこない。

だってきっと彼は私の前だからこそ、強がっていると思うから。弱いところを見せたくないんでしょ? それが返って私を苦しめているとも知らずに。

歯がゆい思いに悩まされる。

気づかない彼は「ありがとう」と言い、去っていった。

彼の運転する車が見えなくなった方向を、私は見つめたまま動くことができない。
< 257 / 330 >

この作品をシェア

pagetop