God bless you!~第9話「その付属と、なんちゃって」・・・合同スポーツ大会
わたしも一緒に行く
5組。
4時間目が終わって、お昼休み。
学食を避けて教室にいる。
桂木と、今も並んでいるが言葉は少ない。
まるで自習中みたいに押し黙っている。
「メシだメシだメシだぁぁぁーッ!」
誰かのお菓子を奪い、誰かの机上に(!)、永田は居座る。
昼メシを忘れて、しばらくは大人しくスマホのゲームアプリにかまけていると思ったら、「おら!オレのパン買ってこいよッ!」と目に付いた仲間をド突いて、嫌々と購買に走らせた。パンが届くまでの時間を持て余し、教室内のあちこちを激写。女子から「ウザい!」とブーイングを喰らっても、お構いなし。
「へいへいへい。うりゃッ!」と永田は、連写でクラス中を回る。
俺と桂木は、ただただ無言で、その喧噪を味わった。
初めてかも知れない。騒がしい永田の存在が、今は有り難いとさえ思う。
黒川が席に居た。右川もいて、これからお昼は1組に移動だとか言う。
「あ、さっきだけどマジごめんな。盗み聞き」
唐突に、黒川が右川に謝った。
「誰かに言ったら、ほんっとに殺すよ」
「だから言わねーって。他人事なんて、つまんねーから」
癪にさわる。
俺が先に謝ろうとしたときは、ケンカを売るような物言いをしておいて、右川がすっかり落ち着いた頃になって、思い出したように謝ってみせる。
黒川は、上手いかもしれない。かもしれないが、釈然としない。
右川は、すっかり機嫌が治っている。黒川もいつも通りだ。
だが、俺達は……桂木とまた一段と、ギクシャクしてしまった。
クラスもお昼も、恐らく帰り道も、正直つらい。地獄だろう。
今だって、こうして向かい合わせで2人でいても会話は無い。
何を話せばいいのかも浮かばない。辞めたい気持ちに弾みをつける。
放課後になって、半分逃げるように生徒会室にやってきた。
だが当然と言えば当然、桂木だって用事があるからやってくる。
生徒会室で2人きりは、さらに厳しい。
すると、そこに右川がやって来て……初めてかもしれない。
その存在を有り難いと思える。
「議長。このドア、早く直してよ。寒いんですけど」
「つーか、誰のせいだと思ってんだよ。おまえが弁償しろ」
「だーかーらー、ちょこっと会計から出すとかしてさ」
「そんなルール違反が出来るわけないだろ」
「会長命令。やれ。議長」
「やらない」
有り難いとコレとは、また別の問題だ。
右川は、何かを探してしきりと首を動かす。
やがてお菓子を見つけて、食らい付いた。
またケンカになって飛び出されても……逃げ出されても困るから、説教はしない。今日は見逃してやる。
付属からFAXが来ている。
お菓子をツマむついでに「金の話みたい」と右川が取り上げて寄越した。
賞品以外の費用は折半という事で、概算が付属から出されている。
その他にも、いくつか指示がある。不自然な沈黙に囚われないよう、追い立てられるように、俺は作業に取り掛かった。
桂木も何やら冊子をめくりはじめる。
右川が気をきかせて、あくまで自然を装って、じゃ帰るね♪と、そのうち来るかもしれない。そうなった時の事もちょっと考える。
2人だけになったら、そうなったら今日こそは……覚悟を決めた。
今度こそ、桂木との曖昧な関係にケジメをつける。
阿木は、用事があるとかで今日は居ない。真木も吹奏楽に出ている。
浅枝は……。
そういえば浅枝を、朝から見ない。
右川も気づいたようだ。
「ねえ、ミノリ、チャラ枝さんって、今日もご案内?」
「今日は付属に行ったみたいよ。打ち合わせとかで呼ばれて」
「浅枝だけ?」
「そう。昨日から。って知らなかったの?」
俺は聞いてない。
昨日も今日も、ご案内をやってると思ってた。いつの間に。
1人だけでやってよかったのか。そんな心配もチラッと浮かぶ。
「それは平気っていうか。一応、友達と一緒に行ったみたいで」
わざわざ浅枝を指定して……具体的な経費の話をしたという事か。
そして、こうして概算が出て。
送られてきたFAXを眺める。
「何か、あたし嫌だな」
「うわ♪ミノリも行きたかったの?」
んな訳ないでしょ、と同等の非難の眼差しを、右川は浴びた。
桂木は、この所の付属の対応が、やっぱり納得できないと、
「だいたい、見学とかいうあの人達何?ゾロゾロやって来て、じろじろ見て。遊んでるだけ。作業だって、結果だけ電話かけてこいとかメール送れとか、いつも一方的だし。こっちが必要な事は全然教えてくれないじゃん。ちゃんとした人が来ないから分からないままだよ。説明会の意味が無い。こんなんで、大会やれる?」
桂木の言い分も分かる。
「確か、書記が5人もいるんだよな」
「ね、一体今は誰と話せばいいの?沢村は誰と話してるの?」
「誰って……打越会長と。ってもメールだけで。そういや、あっちの実行委員。名簿とか来てた?」
「あたし見てないよ」
「じゃ、帰るね♪」
右川は突然、立ち上がった。
唐突過ぎる。
恐らく、俺達の間がギクシャクしている事を気にして……正確には、桂木を思いやって1度はこの場に留まった。
2人の会話が弾んだのを見届けて、大丈夫だと確信して……逃げだす。
有り難いとコレとは、また別の問題だ。
待てよ、と右川を止めた。
「今聞いたろ。会長としてどうなんだよ」
「どうって?」
「浅枝なんか、家が遠いのに呼び出されて。行くのを強いられてんだぞ」
そこまで強制的でもない気はしたが、そこはちょっと盛った。
右川はしばらく考え込む。
「そしたらさー……」と、またそこで割と長い時間、考え込んだ。
かなりの長考。いつまで我慢できるだろう。桂木も落ち着かない。
程なくして、
「あのさ。またチャラ枝さんが呼び出し食らったら、今度は、あたしが行こうかな」
「おまえが?1人で?」
「1人でも全然いいけど。暇なら、あんたも一緒に来る?」
「え、俺?」
「何も無かったよぉ~♪って、あたしが言っても信じないでしょ」
確かに。
「とりあえず明日の放課後、いつものように、ここに居てよ。付属でどんな感じだったか、とりあえずその辺、チャラ枝さんに聞いておくからさ。その内容次第で、今度は会長と議長が行きますって事で」
耳を疑った。
問題解決に、前向き。理性的な判断。
あっさりと謝るみたいに、今までのすべてが片付いたような言い方で……俺は頼まれたのか?
かなり驚いた事を押し殺して、「ああ」と素っ気なく返す。
右川は、もう普通に「じゃ、帰るね♪」と出て行こうとする。
その時、桂木が声をあげた。
「それ、わたしも一緒に行っていい?」
ちょうど、右川は扉を開けたと同時だった。
桂木の声は聞こえていたはずだ。
その証拠に、出て行く時に一瞬、右川は躊躇して、その肩が震えたのを俺は見逃さなかった。だが、聞こえない振りでそのまま出て行く。
これは有り難いどころじゃない。
この先を、俺の判断に丸投げだ。
「わたしも、行くね」
聞こえない振りは、もうできない。
「いや、それは……いいよ。俺と右川で」
「どうして」
「どうしてって……俺に聞かれても。それを言ったのは、右川だから」
俺も丸投げだ。
「そこに、あたしが居たらダメなのかな」
桂木の……彼女の立場でそれをどうとか言ってる場合じゃなくて。
右川に何か考えがあって。
そうでなければ、俺に何か頼むという唐突な行為が頷けないからだ。
桂木も自分の放った言葉の次元の低さに後悔したのか、察したのか、「きっと、何か理由が。それは分かるんだけど」と俯いて黙る。
俺も、もう何て言っていいのか。
これから久しぶりに部活に出るから……と、逃げ出した。
右川と同じようなものだ。
頭のいい桂木は、俺が逃げ出した事に、きっと気付いている。
こんな男のどこを優しいと言えるのか。右川に聞いてみたい気もする。
その日、桂木からのラインは1度も来なかった。



次の日、右川は早速、浅枝に話を聞いた。
「はい、友達と一緒に行きました。特別、何があったっていう訳じゃないですけど。行ったらいきなり男子が5人くらい出てきて。ちょっと花より男子♪って感じでみんなカッコよくて。生徒会室で私と友達、その子達だけになって……やだ!変なことされたとか全然無いですよー。みんな真面目な子ばっかりでした。お菓子とか飲み物とかドンドン出てきて。色々お話しちゃいましたぁ♪ほら、ラインも交換してます。あ、沢村先輩の事も色々と聞かれて……大丈夫ですよぉ。べタ褒めしときましたから。はい、明日も来てくれって言われたんですけど、別に行ってまでやる事無い気がします。今まで通り、メールとかFAXで済むんじゃないかな。実行委員っていう人は、あちらでは聞かなかったですね。あ、書記さんが出てきて、仕切ってたかなぁ……なんとかって言う人です!」

俺がこの話を聞くのは。
その後……今期最高、酷い目にあった後の事である。
< 11 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop