お嬢さん、愛してますよ。
お嬢さん、喉つまりますよ。

次の日。
私はノーパソを入れたカバンを持って、また図書館へ出向いていた。
その図書館といっても、市が運営しているものではない、個人図書館。新しい本は入ると言われれば入るのだが、マニアックなものが多く、置いてある本も古い蔵書や文献ばかり。日本語で書かれている本の方が少ないのではないかと思われるほど。
おかげで、人が入ることはまずない。入ったとしても、よっぽど物好きな人でない限り、すぐに出て行く。
静かで、本の匂いがして、午後はお日様が微かに入って。私はいつもお邪魔していそいそと作家活動をしている。1日の半分図書館にいる時もあるのだ。

そして、その図書館の司書兼館長であるおじいさんがいるのだか……。

「思えば、昨日もいなかったよね」

図書館に入って、一言目。いつもおじいさんのいるカウンターは本の山。それはいつも通りなのだが、そこに埋もれるように座って本を読んでいるおじいさんの姿はない。いないとしても私が来たと分かればどこからか「いらっしゃい」と声が聞こえるのだが。

そして、昨日は代わりに夏河さんに出会ったのだ。

んん、おじいさん体調でも崩したのかな。

とりあえずいつも通り、二階に上がり窓際のテーブルの席に座る。
ノーパソを立ち上げている間に物語を書くのに必要なめぼしい本を適当に持ってくる。本を取り出したその場ではすぐには開かない。開いて読めばそこで読み続けて、昨日のようなことになるからだ。

ホーム画面を開くとメールが来ていた。編集さんからである。

「あー、明後日打ち合わせか。今日のうちにだいぶ進めなきゃな…」

そこから先はひたすら物語を打ち込むだけ。
本を開き、にらめっこしながら闘っていく。

大学生の頃、物書きになるのが夢だった私は初の長編物を書いて出版社へ投稿。すると、自分でもびっくりしたが、文学賞を受賞してあっさりデビュー。当初の時よりは下がったものの、食っていけるだけの人気、稼ぎはある。
だが、売れようが売れまいが、地道で、大変な作業であるのに変わりはない。
来世も同じ人生を送りたいかと言われたら大きく手を振ってNOと答えるだろう。


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