【医、命、遺、維、居】場所
「杏梨ちゃんのこと、話せてなかったから。」





「あー・・・そーだった。巧が対応してくれたんだってね。ありがとう。」





手術の経過観察とかで言い忘れてた。と言われたが礼を言われることはしていない。







「それはいいんだけど。杏梨ちゃん、引き取るのか?」




「・・・なんだ、聞いてたの。」







柚希の目が少し泳いだ。



遥は麦傍から聞いたという体になっているけど、俺はその後も出るに出られなくなって、結局中庭で食べながら時間を潰したからな。



知らないと思うのが当然だ。








「悪い、盗み聞きするつもりはなかった。」




「別にいいよ。隠すつもりはなかったし。長男の為に出した結論だと思うし、叔父さんの気持ちも分からなくはないからね。それに、叔母さんのお墓も実質私が管理しているから、杏梨も叔母さんと一緒がいいだろうしね。」




「それはそうだけど・・・」











俺と遥との非常階段での会話を聞かれていないようでよかった。




人気のないところとはいえ可能性が全くないとは言い切れないと、自分が聞いてしまった立場になってそう思い始めて少し焦っていたから。



蒸し返したくもない人生最大の黒歴史に値するし、遥もそのことはスルーしてくれている。











「ありがと、私は大丈夫だから。麦傍先生も駒枝さんもめちゃくちゃ心配していたけれど、それほどでもないんだよ。」








平気な顔して笑ってる。



話しぶりからして、遥にはまだ会っていないみたいだ。







「というかね、実感がまだないんだよね。声聞けなかったけど、ただいまなんて今にも帰ってきそうな気がしてさ。」








ああ、またこの顔だ。


泣けないのさえ、紫さんの時みたいに、全部無かったみたいな顔。





忘れることさえ出来ない、見たくもない笑顔。









「そ・・、うか。」










それ以上杏梨ちゃんの話をすることはなく、別の話題へ切り替える。





柚希がふれなかったから。




フォローすら出来ずに、繰り返されたそれに甘えて逃げた。









柚希の笑顔に、耐えられなかったから。




壊れてしまいそうで、怖かったから。











だから、もう。




勝手な罰さえも受けれない。











【巧side end】
< 24 / 43 >

この作品をシェア

pagetop