お嬢様、今夜も溺愛いたします。
「もしかして、紗姫のことですか?」
「おや。私のことは下の名前、加えて敬語ですのに、他人の男には名前で呼び捨て。しかもタメ口とは……」
「ちょっ……ちょっ、ちょっと待って下さいっ!!」
ブツブツと言いながら立ち上がった執事の前で、私は頭を抱えた。
「あの子……というか、私が一緒にいたあの子は、女の子です」
「え?女の、子?」
えっ!?
なんなのこのキョトンとした顔は!!!
いつも飄々としているくせに、こんな表情!!
ほんのちょっとだけ、可愛いと思った自分を殴りたい。
「そ、そうです。確かに男子の制服着てましたが、れっきとした女の子です。元々長い髪やスカートが嫌いらしくて。本人的には今すぐにでも男になりたいそうですが……紗姫はれっきとした女の子です」
「そ、そうでしたか……」
心の内の動揺がバレないようにと必死に説明すれば、途端にガクッと項垂れる黒木さん。
えっ!!
そ、そんなに落ち込むことかな?
紗姫を男の子と見間違えたことなんて。
確かになんでもスマートにこなしそうな黒木さんだし、プライドとか高いのかも。
「大丈夫ですよ。黒木さん」
「はい?」
「間違いなんて、誰にでもあります」
「…………」
「女の子を男の子と間違えたくらい、どうってことな……」
「お嬢様」
「はい?なんでしょう?」
「ここに……私の目の前に、立って頂けますか」
「?はい」
な、なんだろう……
今度こそ、禍々しい……というか、笑ってるはずなのに、目が笑ってないんですけど……
ん?
というか、なんで私たち、こんな至近距離で向かいあわせで立ってるの?
頭にハテナを浮かべる私に、にっこり笑って黒木さんは耳元で囁いた。
「お嬢様、危機管理のお時間です」