プロポーズは突然に。






リビングの入口に立ち尽くしたまま

涙を流す私が感じたのは、

テレビも付いていない静まり返った空間で

自分が鼻を啜る音。





そして…私の目の前に来て、

何も言わず、何も聞かず、

ただ静かに手を握ってくれる彼の温もり。





鼻をかすめるシトラスの香りに思考回路を奪われ、

その温もりに癒されて…





この感覚がどこか懐かしいような気がして、

余計に涙が溢れた。










───今思えばこの時から、少しずつ記憶の蓋が開きかけていた。
< 265 / 370 >

この作品をシェア

pagetop