プロポーズは突然に。




それからどれだけ時間が経ったのか…


その女は飽きもせずにひたすらそのページを眺めていた。




『…その人のファンなのか?』




俺の発したその声に、女はビクッと肩を揺らして、こちらに視線を向ける。

そして、ゆっくりと首を横に振りながらポツリと呟いた。




『そういうのじゃないです。ただ、この人の笑顔が見たくて…』

『ふーん…』



そういうのをファンって言うんだろ、って思ったけど…まぁどうでもよかったし何も言わなかった。




『……当たり前のことにこそ感謝』

『…は?』

『口癖なんです、この人の』

『口癖?』

『誰かと挨拶を交わすこととか、誰かとご飯を食べれることとか、誰かに…愛されることとか』

『…』

『みんな気付かないかもしれないけど…そんな当たり前は奇跡なんです。すごく恵まれているんです』





そして無表情だった女はぎこちなく微笑み…




『どんなに恵まれていても…忘れないでくださいね』



そう言って、ありがとうございました、と俺に頭を下げると、雑誌を返してきた。

かなり衝撃を受けた。

自分よりも年下の女に己の人生を諭されたような、そんな感覚。





< 340 / 370 >

この作品をシェア

pagetop