クールな社長の耽溺ジェラシー


「ライトアップ期間中は人も増えるだろうけど、終わればいつも通りだろうな」

私の想い……というより、そもそものコンセプトが見事に砕かれる。

「えっ、そんなあっさり……」
「それでもこの企画でいい思い出ができれば、また足を運びたいと思う人も出てくる。そういう人がひとりでも多くできて、結果少しでも増えてくれればいい」

新野さんの言葉には裏表がなくて、現実的だけど温かさがあった。

最初に会ったときは、この無愛想な人が本当に新野デザイン事務所の社長かと疑ったし、がっかりもしたけれど、照明通りの人だった。

理想を押しつけるのではなく、いつだって誠実に人のことを考えている。

「新野さんって……優しいですね」

ずっと私に歩幅を合わせてくれたことも、腕を組むことを協力しようとしてくれたことも、全部含めて根が優しい。

「言われたことないな」

軽く口元をほころばせた新野さんは、なんだか嬉しそうに見えた。

「それより暑くないか?」

八月の太陽が降り注ぐ外はアスファルトの照り返しが強く、近くの建物は地面に濃い影をつくっていた。

「いえ、それが思ったより暑く……って、新野さんが日よけになってくれてますよ」

よく見ると私の影はすっぽりと新野さんの影に覆われていた。

「小さいな」
「色気がないって言われます」

主に広瀬さんに。

冗談めかして拗ねてみると、新野さんは頭にポンと触れてきた。


< 26 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop