クールな社長の耽溺ジェラシー


私なら、どうするだろう。どうやってライティングしようか。

「いえ、そうじゃなくて……裏のコンセプトです。会議がはじまる前にちらっとクライアントから聞いちゃって。新野さんならさきに聞いてるんじゃないですか?」
「ああ、なんか聞いたな。――カップルが集まる街づくり、だっけ」

黙って話を聞いていた私は、反射的に肩をピクリと揺らした。そう……今回のコンセプトは、表向きは“人が集まる”だけど、裏は“カップルが集まる”というものらしい。

「あれ、冗談じゃなかったのか?」

新野さんは本気にしてなかったのか、わずかに目を丸くした。

「本気っぽかったですけどね。メディアにも取りあげてもらいやすいですし、若者の口コミで人が集まるんじゃないかって」

クライアントの考えではカップルを集めれば、その結果として人が集まる……という図式のようだ。もちろん、それを大々的にいうと「おひとり様は!? ファミリーは!?」と反感を買うので発表はしない。

「ようはロマンチックにしてほしいってことなんですよね」

広瀬さんはさも簡単なことのようにつぶやくと、エレベーターの“開”ボタンを押す。いつの間にか一階に到着していた。

「小夏は? 気合い入っていたみたいだけど」

三人ともエレベーターを降りると、新野さんが足を止めて私を振り返った。黒目がちな瞳にまっすぐに見つめられると、なにもかも見透かされそうでドキリとした。

「わ、私は……考えてもわからないので、実践しようかと」
「……実践?」

新野さんが怪訝な様子で眉を寄せる。わかっている、バカなことを言っているのは。そして、もっとバカなことをこれから口にするということも。

「あ、あの……広瀬さん、私と付き合ってくれませんか?」

一歩詰め寄って迫ると、広瀬さんは目と口を大きく開けた。

「は!? 俺のこと好きだったの?」
「いえ、恋愛的な意味ではまったく。でも、それくらいしないとわからないかと……」

彼氏いない歴イコール年齢。仕事だけしてきたから、いまさらカップルの気持ちなんてわからない。

もちろん、いままでだってホテルや商業施設、公園……いろんなシチュエーションで、見る人や住む人の立場を考えて設計をしてきた。

すべてそのときの力を出し切ったので満足はしているけれど、そのどれも先輩から助言をもらって手直しを重ねたもので、まだ自分だけできちんと完成させたことがなかった。

だから、今回はちゃんと相手の立場になって求めるものを自分で掴んでいきたい――そう思った。その答えが、これだ。

広瀬さんをじっと見ていると、新野さんがクックッと肩を揺らして笑っていた。

「面白いな、照明のためにそこまでするって結構尊敬する」
「う……い、いいですよ、バカにしてくださっても」
「いや、本気で言ってる。いいと思う、その真剣さ」
「えっ……」

絶対バカにされると思っていたから、その笑顔も熱っぽい視線も不意打ちすぎた。

「よかったら俺が付き合うけど」
「えぇっ!?」

その言葉も不意打ちすぎて、人目も気にせず大声で叫んでしまった。


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