休みの日〜その夢と、さよならの向こう側には〜
44.エピローグ(2)
水無月奏

 私は先輩のことが、高校生の頃から好きだった。一見頼りなさそうな見た目の先輩は、実は優しさに溢れていて、それが私の感じる大きな魅力だった。

 私が先輩と出会ったのは、高校へ入学して生徒会役員へ所属した時。特に部活動をやりたいと思っていなかった私は、当時募集をしていた生徒会役員へ立候補した。

 選んだのは、書記の役員。子どもの頃に書道を習っていて、それなりに字が上手いと自負していたからという単純な理由で、書記を選んだ。そして会計の役員を、当時高校二年生だった先輩が務めることになった。

 初対面の人と話すのが苦手な私は、初めて役員が生徒会室へ招集された時、教室の端っこの椅子に一人でポツンと座っていた。私以外の生徒会役員は、みんなが年上で、一年生の私は明らかに浮いていた。

 そんな、一人浮いている私に話しかけてくれたのは、滝本悠という先輩だった。

「あ、あの、これから一年よろしく」
「えっと、よろしくお願いします……」

 先輩も私と話すことに緊張していたのか、どこか自信がなさそうな表情を浮かべていた。きっとこの人は、女の子と話をすること自体、慣れていないのだろうなと思った。それでも一人でいる私に話しかけてくれて、すぐに優しい人なんだと理解できた。

 先輩は緊張しながら、私に色々な話を振ってくれた。最近のニュースや、昨日やっていたドラマの話。はたまた、昨日食べた夜ご飯の話とかを話題にあげて、私の緊張を一生懸命ほぐそうとしてくれていた。

 もし先輩がクラスメイトの女の子に同じような話題を振っていたら、苦笑いを浮かべられて逃げられている。そんな、正直言って全く面白みのない話を精一杯話してくれる先輩が面白くて、いつのまにか私の顔には笑顔が浮かんでいた。

 笑顔を浮かべる私を見た先輩は、密かにホッとしたように胸を撫で下ろしていて、あぁ、やっぱりこの人は優しい人なんだなと、確信した。生徒会に入って仲良くなった先輩は、同時に、高校へ入って、初めて仲良くなった人でもあった。

 先輩が話しかけてくれるから、他の役員の方たちも私に話しかけてくれて、いつのまにか私は一つの輪の中に混じれていた。

「そんなつまんない話しても、奏ちゃんが困っちゃうだけだよ」
「そ、そうかな」
「そうそう。滝本は女の子と話すの下手すぎ」

 きっと先輩がいなかったら、私はいつまでも生徒会室の隅っこで、一人で座っていただろう。
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