気がつけば・・・愛
クリーニング屋さんで
ため息の種を手放すと車を走らせる

普段はスーパーで買い物をして
家に帰るだけの毎日

単調な生活の中に見つけたカメラに
どこかウキウキしている

ーー久しぶりーー

簡単なキッカケで
いつもより笑顔になっている自分

こんな気分も久しぶり過ぎて
ハンドルを握る手に力がこもった


行き先は・・・

学生時代にコッソリ通ったお寺

山手にある寂れたお寺

四季折々の木々と花が
一年中咲き...被写体に事欠くことはなかった

住職さん不在の寺は
檀家さんの手入れで古いながらも
凛とした佇まいを見せていた

「もしかして廃寺になってたりして」

フフと笑って車を走らせる

徐々に山道へ差し掛かると
すれ違う車もなくなった

40分程で車寄せに到着すると
カメラを片手に長い石段を登る

ーー運動靴にすればよかったーー

選んだヒールに後悔しながらも
時折振り返ると眼下に広がる
新緑へカメラを向けた

「懐かしい」

少し上がる息と心地よい風が気持ちいい
日頃の嫌なことを忘れさせるには十分過ぎる風景

山門に到着すると
18年振りの本殿を仰ぎ見た

寂れた感じは否めないが
新たな手が加えられたのか
見違えるほど綺麗で
手入れされた境内は趣きがある

「桜の頃に来たかったなぁ」

すっかり葉桜になった古木を見ながら
奥へ進むと色とりどりの芍薬に引き寄せられた

「綺麗」

角度を変えながら
夢中でシャッターを切った

「やっぱ濃いピンクが好きだな」

大きな芍薬の花に見とれていると

「良い写真は撮れましたか」

不意に背後から声をかけられ
驚いて振り返ると
袈裟姿のお坊さんが立っていた
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