気がつけば・・・愛
最上階の3部屋全て寛子の所有らしく
気兼ねなくと鍵を持たされた

ビルの隣には派出所があり
街中だし安心安全な場所だと言う

緊急避難として通された部屋は
家財道具一式が揃っている

「なんでも使っていいからね」

ひと通りの説明をすると

「隣に居るから必要な時は声掛けてね」

石黒さんと共に帰って行った


「フゥ」


一人になると早速元の生活から離れる準備に取り掛かった

ビルの前からバスに乗ると
カルチャースクールの入る駅前にある複合型商業ビルのカリーナへ

総合受付で二つの教室の解約手続きを済ませ
銀行と郵便局へ足を運ぶ

信じていない訳では無かったけれど
[野村あゆみ]名義の口座を解約も名義変更もせずに持っていたことに安堵した

図書館で借りていた本を返却すると
個人カードも解除した

ーー次に来る時は新しい名前でーー

[野村あゆみ]に戻ることを
強く意識しながら
ひと通りの用事を済ませた

「夜は一緒に」

寛子からの誘いを思い出して
部屋に戻って待っていると

急に不安に襲われる

頭に浮かぶのは良憲さんの笑顔だけ

ーー逢いたいーー

委ねたい想いを必死で堪えて
寛子の帰りを待った












< 50 / 77 >

この作品をシェア

pagetop