気がつけば・・・愛

ヤキモチ



・・・・・・
・・・





朝のお務めが終わった本堂


シンとする空気の中





【すみれ幼稚園お泊り会】





手にしたプリントを読む間

不安そうな視線を父に向けて
正面に正座する心《しん》


「いい?」


読み終わっても何も言わないことに
痺れを切らして出た声は小さい


「お母さんがね、お父さんに
聞いてきてねって言ったの」


父と同じように坊主頭の心

大きな眼は笑うとなくなる


「良憲さんの子供の頃にそっくり」


そう言って微笑むあゆみは
いつも心を甘やかす


「だって母親になれると思ってなかったの」


40歳を超えて授かった我が子
その喜びは年齢に関係なく自分だって同じ

だって・・・

ずっと片想いしてきたあゆみとの子供だから・・・


それなのに・・・


あゆみはいつも飴と鞭の飴役
自分はいつも鞭役で


「お父さんは威厳があるほうがいいでしょ」


あゆみにそう言われると
渋々ながらも頷くしかない・・・

そして・・・

こんな場合も同じ
父親の許可を貰って事を起こす

父の格を守ってくれる今時珍しいステキな奥さん


「あぁ、行っておいで」


頬を緩めると途端に破顔する心


「ありがとう!お父さん!」


立ち上がって飛び跳ねる姿を見ているだけで
一緒に飛び跳ねたい気分になる


それをグッと我慢しながら
心の笑顔を眺めていた


「し〜ん〜」


父の威厳タイムの終了と同じタイミングで顔を覗かせるあゆみ


「あ、お母さ〜ん」


トトトトと駆け寄ると
心の高さまでしゃがみ込むあゆみに
勢いよくトンと抱きついた心は


「お泊り会いいって〜」


あゆみの首に腕を回すと
頬にチュッとキスをした


・・・・・・・・・んんんん


なんだか凄くモヤモヤする


父の威厳を貰って嬉しいはずなのに
早く心と離れて欲しいと願ってしまう


ーーーーーーーハァ


これは間違いなくーーーーーー嫉妬


あゆみの頭を撫でるのも

あゆみの頬にキスするのも

抱きしめて背中をトントンするのも


全部父の仕草を真似ているだけなのに

心が男であるという事実に
モヤモヤは少しずつ侵略を進める


・・・いつからこんなに小さい男?


・・・いつからこんなに女々しい?


幸せなあまりに余計なことを考える

煩悩だらけの頭の中を


「心がお泊り会に行ったら
久しぶりにデートしましょ」


優しく微笑むあゆみはたった一言で
メロメロにしてしまう



何年経っても

恋心が覚めない


・・・いや


・・・益々恋してる


だから少しのヤキモチは大目に見て貰おう



「デート」


久しぶりの響きに

少しでも側に居たくて



二人の待つ家へと足を向けた







ヤキモチ fin





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