気がつけば・・・愛

運命



日常生活で良憲さんが着ている作務衣は法衣と同じ所で用意して貰っている


その藍色を着ているだけなのに
身惚れてしまうくらい格好いい


お庭を竹箒で掃いているだけなのに
腕の筋肉が動くところを凝視してしまうし


本堂への渡り廊下を歩く足元を見ているだけなのに

瞬きを忘れてしまっていたりする


・・・重症だよね


居住スペースの掃除をしながら
いつも本堂を覗いているわたしってどうなんだろう


良憲さんが好き過ぎて
最早ストーカ並みの追っかけっぷりに


自嘲気味に口元を緩めた


今日は珍しく予定の無い一日


郵便局へ行く以外は良憲さんとずっと一緒に居られる


お昼までに用事を済ませるつもりで
家事を素早く終わらせて

エプロンを外して玄関から出た


本堂の正面まで回ると
良憲さんが気配に気づいてくれた


「あ、今日は郵便局だったね」


「他に用事はない?」


「特には・・・ないかな」


「じゃあ行ってきます」


「気をつけて」


少ないやり取りだけれど
良憲さんの優しい眼差しを見ているだけで


胸がキュンとするから
一秒でも早く戻って来たいって気持ちになる


愛車で街へと出て
近くの和菓子屋さんで季節の練り切りをお土産に買うと

脇目も振らずに寺へと戻った


車から降りたところで
微かに聞こえる笑い声に

檀家さんがお見えなのかと家へと入る


お茶セットを用意して本堂へと向かうと
若い女性と談笑する良憲さんの姿が見えた


「こんにちは」


邪魔にならないように隅でお茶を入れてお出しする


「あら、お手伝いさん?」


何気ないひと言に胸がツキンと痛むけれど

平静を装う努力をする


そんな私に一度視線を向けた良憲さんは

「いえ、家内ですよ」


いつもの笑顔でそう答えた


「え」


それが意外とでも言わんばかりの女性は
私の姿を値踏みするように眺めた後で


「あら、ごめんなさいね
ご住職より随分年上に見えたから
私ったらてっきりお手伝いさんかと思っちゃった」


舌でも出さんばかりの軽い謝罪は
突き刺すような棘がある

けれどもこの女性の言うことはひとつも間違っていないから

心の中でため息を吐いて堪えることを選んだ


「では、ごゆっくり」


頭を下げて戻ろうと立ち上がった私を目で追う良憲さんは、ひとつ頷いた後で静かに語り始めた


「私は欲張りだから死ぬ時も妻と一緒が良いんです
人間の平均寿命は男女の差が凡そ五歳程度
だから五歳差の妻と私は丁度良いんです。
愛する人と同じ時を過ごして共白髪になる
生を終えた後もお墓の中でも一緒に居たい
そんな未来永劫仲睦まじい夫婦でありたいと願っています」


「・・・っ」


良憲さんに二度目のプロポーズをされているようで動けなくて

ジワリと涙が溢れてくる


「私、帰ります」


頬を膨らませたままサッと立ち上がった女性に頭を下げた良憲さんは


「また、お越し下さい」と微笑んだ



□□□



二人きりになった本堂で膝を突き合わせて見つめ合う


「・・・良憲さん」


「ん?」


「ありがとう」


「なにが?」


「私を選んでくれて」


「あ〜、そんなことか
選んだんじゃないよ、これはね
出会う運命と再会する運命と
一途な粘り勝ちの運命と・・・」


話しながら指を折る良憲さんが
堪らなく愛しくて

膝立ちをするとトンと抱きついた


「え?あゆみ?」


突然のことに驚いた良憲さんの耳に


「良憲さん。愛してる」


精一杯の気持ちを囁く


それにフフと笑った良憲さんは


「お昼ご飯の前に可愛い奥さんを愛でるのもいいね」


そう言うと同時に抱きついたままの私を抱き上げた


「キャ」


慌てて良憲さんの首にしがみつく


「あ、え?、良憲、さん?」


焦って声をかけてみたけれど
ズンズンと進む足は寝室へと向かっているはず


「これも運命なの知ってる?」


良憲さんは指を折った続きのように言いながら笑った




ねぇ、良憲さん?



出会いが『運命』で



再会も『運命』なら






毎日良憲さんに恋してる私の想いも
『運命』ですよね?






運命 fin


















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