お見合いだけど、恋することからはじめよう

だけど、そんなあたしの気遣いはまったく無用で、諒くんはラストの約二十分間にわたる圧巻のライブエイドのシーンでも起きることはなかった。
♪ Hammer To Fall なんて、最初からノリノリの楽曲でちょっとThe Rolling Stones(ストーンズ)っぽい曲調なんだけど、それでも諒くんはガン寝していた。

それまでのシーンにあった、スタジオでみんなで手拍子して床を踏み鳴らす ♪ We will rock you なんて地響きするほど大音響だったんだけどなぁ。
諒くんはちょっと顔を歪めただけだった。
もしかしたら、一度寝たらなかなか起きない人なのかな?

いや……それほど、今の彼が疲れているからだと思う。

同じ仕事をしている姉だって、連日の激務によって、あたしが家を出るときですらまだ起きてこなかったくらいだから。


二十代から三十代前半くらいの若手官僚は、毎日早朝から深夜まで、うちのおとうさんのような上司から丸投げされためんどくさい仕事に追われまくっていると聞く。

「優秀」な彼らは、ちょっとやそっとのことでは弱音が吐けない。上司からのどんな無理難題でも、できて当然できなきゃ無能の世界だ。
きっと、諒くんも、そのような若手官僚のうちの一人だろう。


なのに。

……こんなに疲れているのに、わざわざあたしなんかのために時間を割いてくれたのだ。

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