お見合いだけど、恋することからはじめよう

かつて、「ケンちゃん」……ステーショナリーネットの葛城社長からお見合い話を断られたのは事実ではなく、誓子さんから……というか、誓子さんのお父さんである大橋コーポレーションの社長が断った、というのが「真実」だということが判明した。

大橋社長は、ステーショナリーネットの親会社で老舗の文具メーカー萬年堂の後継者である「兄」の方とお見合いをさせたつもりだった。

ところが、もともとお見合いに気乗りしなかった「兄」が、たまたま誓子さんの写真を見て気に入った「弟」にその「権利」を譲ってしまったのだ。

そして、本人同士は会うなりお互いを好ましく思ったのだから、めでたしめでたし…の大団円のはずだったのだが。

今やネット通販では日本有数のシェアを誇るステーショナリーネットであるが、この頃はまだやっと軌道に乗りかけたところであった。

なので、海の物とも山の物ともしれない会社を経営する男に、大事な一人娘(お兄さんはいるらしいが)を嫁がせるわけにはいかないと、大橋社長は判断したらしい。

ところが、娘の誓子さんは相手をたいそう気に入ったらしく、あんなにイヤがっていたはずの結婚に、かなり前向きになっているではないか。

そこで、そんな娘を諦めさせるために一芝居打ったというわけだ。


……すべてを知った誓子さんは、親子の縁を切る勢いで激怒し、現在お父さんとは絶交中である。

ちなみに今のお父さんは、手のひらをくるりと返し、急成長を遂げたステーショナリーネットを経営する葛城社長とのことを手放しで喜んでいるそうだ。

反対するどころか「誓子たちはいつ結婚の挨拶に来るんだ?」と一人先走り、お母さんやお兄さん夫妻に呆れ返られているとのことだ。

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