お見合いだけど、恋することからはじめよう

だけど、ホッとするのもつかの間だった。

今度は肩に手をまわされて、ぐっと引き寄せられてしまった。とたんにがっちり固められて、身動きが取れなくなった。しかも、「親密」に見える。

通りかかった男女が「なぁんだ」という感じで去って行く。

彼の懐に入ったことで、そのスーツからふわっと香ってきた、石鹸のようなのになぜかスモーキーさも感じられる、不思議なフレグランス。

懐かしいあのブルガリのブループールオムが、こんなに怖く感じる日が来るとは、夢にも思わなかった。


「……心配しなくていい、七海」

赤木さんは低い声でそうつぶやき、

「だれにも邪魔されない静かなところで、おまえと話をしたいだけだから」

< 361 / 530 >

この作品をシェア

pagetop