カラダから、はじまる。
Secret ♯5

三月になった。

国会では、首相の度重なる不祥事に対して、野党の追及が激しさを増す中、未だ来月四月から執行される来年度予算案が可決されないため、わたしたち若手総合職(キャリア)はやきもきしながら、終日庁舎(会社)に詰めている。
さらに、父や田中たちには逮捕されたコーン関連の処理もあった。

……役人(わたしたち)が書いたメモばかり読んでないで、自分が引き起こした不祥事なんだから、言い訳くらい自分の言葉で言えば?

予算委員会での首相の答弁を見ていて、つくづく思う。認めるところはさっさと認めて通してもらわないと、このままでは暫定予算での執行となるからだ。だけど、結局は「お得意」の、唐突に委員長に審議をぶった斬らせて強行採決に持ち込む「作戦」だろう。我が国の「民主主義」はいずこへ……?


「最近じゃ、首相も官房長官もそのほかの大臣も、みんな同じメモの繰り返しだよなー。新しいメモ回してもらえないのかな?」

PCのキーを打つ手を止めずに、山岸が乾いた笑いを浮かべる。

「そりゃあ、政治家(自分たち)の不祥事をぜーんぶ役人(事務方)の責任にしてるんですもの。ささやかな逆襲なんじゃないの?」

うちの課に、届け物を持ってきていた戸川がせせら笑う。

「確かに予算委員会はなんでもありだけどさ。
通常国会(常会)だけは予算のことを最優先してほしいよなぁ」

「だったら、とっとと特別委員会を開けばいいじゃん。ロッ◯ード事件もリク◯ート事件もそうやって『別建て』でやったんでしょ?
首相官邸(かんてい)の、関係者の参考人招致も証人喚問もせず、予算委員会だけでなんとか乗り切りたい、なーんていう甘い考えが()厚かましいのよ。
……七瀬さんも、そう思いませんか?」

一心不乱にPCの入力をしながら、彼らの話を聞いていたわたしは、

「わたしは上に立つ人がだれであろうと、国家公務員として国民のみなさんのために誠心誠意働くつもりよ」

そう答えると、ターンッとenterを叩いて、

「戸川、用が済んだらさっさと自分の課に戻りなさい。今度こそ、本宮から大目玉を喰らうわよ?
山岸、そんなにヒマならもっと仕事を回しましょうか?」

二人をぎろり、と睨んだ。
彼らが、ぶるぶるぶるっと震えたのは言うまでもない。

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