その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
 牢の中にはほとんど明かりが差し込まない。明かりを背にしたフレッドからは、ラッセルの表情は細かく読み取ることができない。

「私なりに妻を愛したつもりだが、苦痛だったのかもしれん。子供らが小さいうちに死んでしまった。だから妻が死んだときに、私は決めた」

 彼がシャツのポケットから古びた写真を取り出す。

「何があっても、子供らを守るとね。家より名誉より、何よりも」

 差し出されたそれを、フレッドも眺める。
 まだ若い家族がフリークスの屋敷の前で並んでいる。ラッセルと妻のあいだに少女のオリヴィア。妻は赤ん坊を抱いている。少女の目は利発そうで、見守るラッセルは柔和な表情を浮かべていた。

 フレッドは写真をラッセルに返す。彼は懐かしそうに目を細めた。

「あれがそのうち男たちの視線を浴びることは予想がついたが、思いのほか早かった。母の不在で、早くに大人ぶることを覚えてしまったせいかもしれん。十四にしてあんな目に遭うとは思いもしなかった」
「それで、私兵を増強したんですね」

 フレッドは冷たい床に片膝をついた。

「……領民の金を流用したことを弁解する気はない」

 ラッセルが写真を大切そうにポケットにしまい、表情を改めた。

「なぜ私が君をあれの結婚相手にしようとしていたか、気づいていたかね」
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