課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。

 私が【榊コーポレーション】の秘書課への異動辞令を貰ってから二か月が経とうとしていた。

 親会社の、しかも本社秘書課に異動を言い渡されるなんて夢にも思わなかった私は、その知らせを受けてすぐに雄一郎さんを探した。
 でも、そこにいるはずの彼の姿はなく、ひとまず通常の業務にかかったけれど、動揺を表に出さずに仕事をするのは苦難の業だった。

 程なくオフィスに戻ってきた雄一郎さんから、「柴原、ちょっといいか。」と空いている会議室に呼び出されることとなった。

 彼の後について会議室に入ると、彼は私が入出した後ドアをそっと閉めてくれた。
 部屋に入って二人だけになっても無言の私に向き直った彼は、こう言った。

 「すまん。美弥子の異動は俺もあの辞令で初めて知ったんだ。」

 思ってもみなかった彼の言葉に驚いて目を見開いた。

 「前に、美弥子の仕事ぶりに関してコウセイに話したことが何回かあったんだけど…」

 「私の仕事ぶり?」

 「ああ。美弥子とこういうふうになる前から、お前の仕事のスキルが高いことは分かっていた。」

 「え?そんな、普通ですよ?」

 「いや、そう思ってるのは、お前ぐらいだよ。前に【榊コーポレーション】で働いてた時の部下達でもお前と同じレベルで仕事をこなせる奴はあんまりいなかったからな。」

 「……」

 「俺は前から上司として、お前をここで埋もれさせるのは勿体無い人材だと思っていたんだ。」 
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