課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
 「意外です。」

 「なにが?ああ、料理か?学生の時から一人暮らしが長いからな。ま、途中二人だった時期もあったけど、相手も働いていたし、家のことは一通りできるんだ。」

 「そうなんですね。まあ、それもあるんですが、」

 「え?」

 「このマンションも…」

 「え、なに?お前知らななかったのか?」

 「はい。以前に書類で住所はチラリと見えましたが、なんとなくの場所くらいしか私には分かりませんでしたし。それに特定したいとも思いませんでした。」

 「興味がなかった、ってことか。」

 「…というよりも個人情報のことですから、業務上目にするのは止むを得ませんが、記憶に残すべきでないかと。」

 「相変わらず真面目だな。このマンションは知り合いから借りてるから格安なんだよ。空き部屋にするよりは誰かが住んでた方が傷まないからって。」

 「そうなんですね。」
 
 「それで?」

 「はい?」

 「たいして興味がなかった俺に結婚を申し込むなんて、真面目なお前にしては、らしくないことをしているのはなんでだ?」

 「らしくない、ですか…。」

 「俺にはそう見えるけどね。」

 課長は私から目を逸らして、ビールをグビッとあおった。
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